ぼくらは群青を探している

 元カノさんという比較的身近な人という点から信憑性(しんぴょうせい)の高さを裏付けられるとすれば、死んだ妹の代わりという説が濃厚……。さすがの私も、蛍さんに特別扱いされていることは分かるけれど、その特別の理由が恋愛にあるとは、どうしても思えない。


「ま、英凜は頭のいい人が好きなんだもんね。侑生みたいなのは特別だけど、基本は特別科じゃないとダメかー。っていうか、それで言ったら笹部はなんでダメなのって感じするけど、英凜の頭がよすぎるんだよね」

「……笹部くんは頭は良くないんじゃないかな。桜井くんのほうが――」


 よっぽど頭が良いよ――と言いかけて口を(つぐ)んだ。胡桃の前で桜井くんの名前を出すのは……、なにか、私にとってよくない結果をもたらすような気がしたから。


「昴夜のほうが?」胡桃は首を傾げて「昴夜が笹部よりいいのって英語の成績くらいじゃない? 笹部、七月の模試の英語四番だって言ってたけど、あれ、昴夜が三番だったんでしょ?」

「……らしいね」


 つい、胡桃は桜井くんの名前を簡単に呼べることの意味を考えてしまった。私はたったのその一言を呼ぶだけでも高くて見えないハードルを越えるのに必死だったけれど、胡桃は呼吸をするように簡単に呼ぶことができる。

 それは、桜井くんと胡桃、桜井くんと私との、如実(にょじつ)な距離の差だ。そんなことは前から――なんなら口にも出して分かっていたことだったはずだったのだけれど、どうしてかそんなことを考えた。


「英語できるからって頭いいみたいなのってあんまりないよねー。やっぱり数学できる人って頭良いなって思うけど。ほら、昴夜、数学は全然できないじゃん?」

「……そうだね」

「笹部は数学できるよ、期末も点数よかったみたいだし。っていうか、そう考えたらますます英凜って頭よすぎるのがもったいないよね。笹部も、英凜じゃなきゃ余裕だったのに」


 仮に笹部くんが数学をできるのだとしたら、もう少し笹部くんとの話は通じやすかった気がする。そう感じるせいか、胡桃の話すことの意味が、あまり分からなかった。


「……桜井くんって、昔からあんな感じなの?」

「なにが?」


 つい、欲望に負けて桜井くんの名前を口に出した。


奔放(ほんぽう)っていうか……天真爛漫(てんしんらんまん)っていうか」

「んー、うーん、それは英凜が昴夜のことを良く見すぎ。ただのわんぱくなガキって感じだよ。ボール一個あれば遊べるって感じのタイプで、あたしがいても全然気にしないで泥まみれになるし、夏になったら川でも海でも飛び込むし」

「……いまと全然変わらないね」

「でしょ。あたしが塾に行った帰りにチャンバラ遊びして、竹で額切ったとか言って、血まみれになって帰ってきたとかあったの! もう昴夜のお母さんがすっごい慌ててた。……すごく美人なお母さんだったんだよねー。懐かし」


 そうか、胡桃は桜井くんのお母さんのことも知ってるんだ。私は、桜井くんのお母さんが事故で亡くなった以上のことは知らないけれど。


「……あ、昴夜のお母さん、亡くなってるの、知ってる?」

「……うん。事故だったって」

「そ。飲酒運転だったらしいよ。だから昴夜、大人になってもお酒は絶対飲まないって決めてるんだって。お父さんは結構飲むんだけど、代わりに車は全然運転しないの」