ぼくらは群青を探している

「……フッてないよ」

「だーよね! 英凜ならフんないよね!」

「……どういうこと?」


 みんなの反応と違うということは、噂の聞こえ方も違ったことを意味する。胡桃の明るい、どこかホッとしたような声には怪訝さを隠さずにはいられなかった。


「だって、侑生が英凜のこと好きなのって、結構分かりやすいじゃん? 英凜、別に天然でもないんだし、気付いてないはずないって思って」


 ザクリ……と無垢(むく)な指摘が良心に突き刺さる。そして私のその機微(きび)を感じ取ったのか、胡桃はその丸い目を(ゆが)めて眉間に皺を寄せ「……もしかして気付いてなかった? マジ?」と怪しい声を出す。


「え、だって侑生だよ? 英凜以外の女子と全然喋んないし、ってかあたしなんてメアドも知らないくらいだし!」

「……雲雀くんのメアドは、陽菜も知ってるから、大して意味を持つ事実じゃないと……」

「え、そうなの。でもそれって英凜の友達だからじゃない?」


 それを言えば胡桃も私の友達ではあると思うんだけどな……。ただ、雲雀くんが……、私を好きだというのは本当なので、胡桃の指摘をそう躍起(やっき)になって否定する必要はない。


「侑生が女の子連れてるところなんて見ないしー……っていうか、笹部相手にあんなにむきになるのも侑生らしくないもん、ほら、侑生っていつもあんな感じでクールだから」

「……そうかな」

「そうだよ。っていうか、だからそうだよー、絶対侑生って英凜のこと好きなのに、英凜にフラれたって噂流れてるのさすがにカワイソすぎない? っていうかこれで英凜も侑生のこと意識してたりしない? そういうのどう?」


 ぐいぐい来る……。爛々と輝く胡桃の目の温度に気付かないふりをして、必死に三年生の棒倒しに意識を集中させた。実際、赤組と青組の戦いでは蛍さんの立つ棒はほとんど揺れず、青組の棒に群がる赤組によって、棒の上の大将が斜めに倒れた棒にしがみついているという中々いいところだった。青組が負けるのは時間の問題だろう――なんて考えているうちに、棒がぐらりと更にかしいで、そのまま生徒の群れの中に沈んだ。


「あ、負けた……」

「え、あ、本当だ。ま、蛍先輩相手じゃ仕方ないよねー。でも黄組は体操部の元キャプテンだから。で? どうなの、英凜って侑生のことどう思ってるの?」


 やっぱり胡桃からは逃れられない……。陽菜とはまた違う温度感で「てかぶっちゃけ侑生だったら好きじゃなくても全然アリじゃない? イケメンだし将来有望だし」と目を輝かせたままだ。


「……別に、ほら……そういう話じゃ……ないから……」

「だからー、ちょっと意識しちゃうでしょって話。でもあたしは英凜は蛍先輩と付き合うんだと思ってた、だからそこはちょっと予想ハズレだったかも」


 突飛過ぎて心臓が全く反応しない人選に、ぱちくりと目を瞬かせてしまった。胡桃は人差し指を唇に当てながら「だってー、蛍先輩は英凜のことすっごい可愛がってるじゃん?」と小首を傾げる。


「元カノさんともそれで別れたって聞いたし……蛍先輩は英凜のこと好きなんだと思ってたけどなー。噂聞いても告白しないってことはそんなことなかったのかな。いや、ここは漁夫の利を狙ってる可能性……!」

「《《利》》ようがなくない? それに……蛍さんのはなんか……」