ぼくらは群青を探している

 能勢さんの問いに対する答えにはなっていなかったけれど「そっか、俺に先に言っちゃだめだね」と納得された。


「……これは、ただの参考として聞きたいんですけど」

「ん?」

「……能勢さんだったら、その、自分を好きでない人になんて告白しますか?」

「んー、そうだねえ」能勢さんは煙草を咥えたまま空中に視線を彷徨(さまよ)わせて「別に、相手に好かれてる好かれてない関係なく、好きだから付き合ってください以上には言わないんじゃないかな」

「……でも、片想いだったら、その答えって決まってませんか?」

「好きって言われて初めて意識する人もいるでしょ。現状好きじゃなくても付き合えば好きになるかもしれないって思う人もいるだろうし。だから――そうだね、断られたら食い下がるかな、じゃ、お試しで付き合ってみない? って」

「……お試し?」

「とりあえず今フリーなんでしょ、だったら暇潰しでもいいから付き合ってみない? って。別に好きじゃなくてもいいからって」


 オウム返しをしたのは、意味が分からなかったからではなかった。でも敷衍(ふえん)されて、それが雲雀くんの提案と似ていることに気が付いた。


「それは……ど、どうして……」

「ザイオンス効果って知ってる?」


 知らない、と首を横に振ると「単純接触原理とも言うんだけど」と付け加えられた。でもやっぱり知らなかった。


「簡単に言えば、人間の接触回数と好感度には相関関係があるって話」

「形だけでも付き合って接触する口実を増やすことで、相手の好感度を上げることが可能になるってことですか?」

「そそ。だからとりあえずでも付き合ってもらうことには意味と価値があるんだよ」


 ……雲雀くんが、〝そういう目で見ることができる可能性があるなら付き合って〟と言ったのは、それを見越してのことだったのだろうか。


「なんでそんなこと聞くの? 雲雀くんの告白を分析したかった?」

「……分析っていうか……」


 雲雀くんの告白にどう返事をするのが正解なのか、考えたかったから……。


「俺はいいと思うけどね、雲雀くんと付き合うの」能勢さんは煙草を足元で揉み消しながら「三国ちゃん、男の目に(うと)いから。そういう意味では雲雀くんじゃなくてもいいけど、せっかく雲雀くんが三国ちゃんのこと好きなわけだし。それに、雲雀くんは三国ちゃんの周りの男子ではベストじゃないかな」


 男の目に疎いという指摘も気になったけれど、どちらかというと雲雀くんと私の組み合わせの見え方のほうが気になった。


「ベスト……、っていうのは……」

「見張りありがと。そろそろ戻ろうか、ちょうど色別演技終わる頃だろうし」


 ……能勢さんは続きを教えてくれなかった。口にブレスケア用のタブレットを放り込み「ジャージに臭いがつくのが難点なんだよね。火薬の臭いですって誤魔化せないかな」なんて(うそぶ)くだけだ。


「三国ちゃんも、ごめんね。ジャージに臭いついてない?」

「いえ、風上だったので……」


 臭い……。赤倉庫で、蛍さんから煙草の臭いがしたことを思い出す。


「……能勢さんって、蛍さんの横で煙草を吸うことってあるんですか?」

「ないない。嫌がるから、永人さん」有り得ない、と笑いながら「それに、一応俺だって後輩だからね。後輩《《然》》としてるよ、永人さんの隣で煙草吸ったりしないって」