ぼくらは群青を探している

 ああでも、群青の先輩達はそもそもメンバーのセンシティブな情報を口にしないのだった。だからそんなことを私が知らなくてもおかしくない。

 それに、能勢さんだって、蛍さんは妹さんに何年も会ってないらしいと言っていた。やっぱりあれは死んだことの婉曲(えんきょく)表現だったのかもしれない。慌てて能勢さんを見上げたけれど、能勢さんも、どこか怪訝そうに、不安そうに眉を(ひそ)めているだけだった。能勢さんも知らない、と。


「だから所詮身代わりって言ってんでしょ。それをモテてるとか、そういうふうに勘違いすんの、やめといたほうがいいよ。イタイだけだから」


 まるでその情報格差で優位を確信したかのように、蛍さんの元カノさんはそれだけ吐き捨てて立ち去ってしまった。

 呆然と立ち尽くす私の肩には、能勢さんの手が載ったままだった。その能勢さんをもう一度見上げる。蛍さんの元カノさんの発言に困惑した顔はそのままだった。


「……あ、助けていただいてありがとうございます」

「……まあ」能勢さんは私を見下ろして「雲雀くんの一件は俺達にも責任あるし。っていうか、三国ちゃんに用事あったんだよね、ちょっと付き合ってよ」


 能勢さんが私に用事? ゾワッ――と一瞬で体が硬くなれば、能勢さんは柔和な笑みを浮かべて「大丈夫大丈夫、ちょっと見張りしてほしいだけだから」……見張り?

 さすがに学校内で二人きりになったからって何かされることはないだろう。とはいえ見張りとは一体何の……、と別の警戒心を抱きながら能勢さんに手招きされるがままについて行けば、グラウンドの端っこにある塀の裏に連れ込まれた。


「そこ、立って誰か来ないか見といてくれない?」


 何かされるんじゃ――と一歩下がった瞬間、能勢さんが取り出したものに面食らった。煙草だった。

 ……この人……。曲りなりにも二年生特別科のトップなのに、体育祭の日にこんなところに隠れて煙草を吸うのか……!

「道路からもグラウンドからも見えなくていい穴場なんだけどね、見張りが要るのが玉に(きず)なんだ。ごめんね、三国ちゃん見つけたからちょうどいいやと思って」


 用事があるなんて言われたときの私の警戒心を返してほしい……。ただ、どおりでこの暑い日にジャージの上着を羽織(はお)っているわけだ、そうでないと煙草を隠し持つことができない。

 能勢さんは塀に背中を預け、カチッカチッと安げなライターで煙草に火をつける。ふー、と煙を吐き出すその横顔は……造形の綺麗さに大人のアイテムが加わって、たったひとつ年上の人とは思えなかった。能勢さんが女子に人気なのがイヤというほど分かる光景だった。

 同時に、煙草の臭いが鼻をつく。私が一瞬顔をしかめてしまったのを見たのか、能勢さんは煙草を(くわ)えたまま「ごめんごめん、もうちょっと風下行くね」と苦笑して数歩奥へ向かう。そう言われて初めて自分が風上に立っていることに気付き、だから能勢さんも私を見張りに立たせてもいいかと判断したのだと分かった。一応、能勢さんは私の体が弱いと信じてもいるわけだし。


「……そんなに、煙草吸いたかったんですか?」

「んー、まあ、ニコチン切れるとね、イライラしちゃうから。昼休みに吸っとこうと思ったんだけど、意外と時間なくて」

「……なんで煙草吸い始めたんですか?」

「なんで? んー……ワルぶりたかったからかな」