ぼくらは群青を探している

 いや、思い出せ、文化祭の準備中に不意打ちで私の写真を撮った人がいなかったか……。少なくともこの写真に関しては私はカメラ目線なんだ、写真を撮った人を見ていたはず。……でもさすがに三年前のこの場面で私の写真を撮った人なんて……。


「なに黙ってんの? 言い訳できなくなったら、今度は泣きでもすんの? いいよね、そうやったら永人か九十三が来てくれるもんね」


 ……だめだ、さすがに思い出せない。

 でも逆に、思い出せないということは荒神くんの可能性を排除する気がする。荒神くんとは文化祭準備中に一回話したことがあるだけだ、そんな人に写真を撮られたらさすがに覚えているはず……。となると荒神くんではない、別の誰かが蛍さんに渡したとか……。何のために……。


「だからなんか言えって言ってるでしょ!」


 完全に記憶を探ってばかりいたせいで、肩を突き飛ばされるまで蛍さんの元カノさんのことは意識からはじかれていた。お陰で蹈鞴(たたら)を踏み――そのままドンッと背中が誰かにぶつかると同時に両肩を受け止められた。


「後輩いじめちゃだめですよ、先輩」


 その能勢さんの声と同時に、サッと蛍さんの元カノさんの頬に朱が差した。後輩いびりを見られたからか、はたまた相手が能勢さんだからかは分からなかったけれど、少なくとも私への攻撃が失速したのは間違いなかった。


「……いじめてなんかなくない。永人の愛人、いつからやってるのって聞いてるだけだし」

「三国ちゃんは永人さんの愛人なんてやってないですって。永人さんが愛人作る人じゃないっていうのは曽根先輩がよく知ってるんじゃないですか?」


 ……そういえば蛍さんは誠実さが売りだなんて話してたっけ。だからって誠実とは限らないけれど。


「……じゃみんなが言ってんのはなに?」

「永人さんがあんまり気に入ってるもんだからふざけて愛人って呼んでたらそういうことになっちゃっただけです。すいませんね、俺らのせいで」


 蛍さんの元カノさんがそれに納得したのかどうかは分からなかった。表情に変化はあるけれど、それが嘘を弾劾(だんがい)しようとしてのものなのか、納得してなお納得したくないものなのかまで私には分からない。


「あと、そろそろ赤組の出番終わるんで、三国ちゃんいびってるところ見つからないほうがいいんじゃないですか?」


 そっか、わざわざ蛍さんの愛人だのなんだの言い始めるってことは、結局まだ未練があるんだもんな……。そんなことを考えている私の前で、蛍さんの元カノさんは舌打ちまじりに「……別に永人とかどうでもいいけどさ」とその論理的な結論とは真逆のことを口にする。


「……三国さん、永人の愛人なのかどうかは別として、お気に入りだからってあんまり調子乗らないほうがいいんじゃないの」


 今週一週間、散々聞こえるように言われた言葉の中には、そのセリフがイヤというほど含まれていた。別に調子に乗ってるつもりはないんだけど、そう見えるのかな……。やっぱり笹部くんが「最近イケてる」のがよくなかったのかもしれない。イケメンをフるなんて何様だと思われているのだろう。


「どうせ、死んだ妹の代わりなんだから。その立場、三国さんじゃなくてもいいんだから」


 そんな呑気な思考は、思わぬ情報に叩き潰された。


「なにその顔? 知らないんだ。ま、そうだよね、所詮愛人っていうか、身代わりだし」


 死んだの? 蛍さんの妹って、死んでるの?

「え、いや、だって群青の先輩だって、誰も……」