ぼくらは群青を探している

 ぶんぶんと首と手を横に振る私に、蛍さんの元カノさんは苛立った顔つきのまま首を若干傾ける。蛇がその鎌首(かまくび)をもたげて威嚇しているかのようだ。


「高校に入るまで永人と全然関係なかったわけ?」

「関係どころか顔すら知らなかったです……」

「フーン。それ嘘だよね? こっちには証拠あるんだけど」


 証拠? 私は蛍さんの愛人をしたことがないのに、私が蛍さんの愛人だった証拠? ますます混乱する私の目の前に、蛍さんの元カノさんはずいっと印籠のように携帯電話の画面を見せつけてきた。


「これ見て、まだ言い訳する?」


 ……そこには、私がうつっている写真が表示されていた。

 正確には、私がうつっている写真を表示する携帯電話画面の写真だ。うつっている携帯電話は、私の記憶が正しければ蛍さんのものと同じ機種だ。つまり、蛍さんの携帯電話に私の写真が入っていることが分かる。

 しかも、その写真の私は中学生だ。教室の窓際の席に座っている制服姿の私が、教室の中から撮られている。それだけでは何年生かまでは分からないけれど、多分顔つき的に一年生か二年生だろう。そして当然のことながら私はカメラを見ていない。

 つまり、盗撮……! 身に覚えのない愛人の証拠は、まさかの蛍さんに盗撮されていた証拠だった。一体蛍さんはどういうつもりなんだ! それにしても、最近のみんなの中では写真を証拠にするのが流行っているのだろうか。それ自体は動かぬ証拠でいいと思うのだけれど、いかんせんみんなその写真からの推理が杜撰(ずさん)すぎる。つい、そんな偉そうなことを考えてしまった。


「……それで、その、この写真が一体……?」

「は? アンタ、高校に入るまで知らなかったって言ったよね? だったらなんで永人がアンタの中学の写真持ってるわけ?」


 いやだから盗撮……! なんなら私が蛍さんを問い詰めたい、一体なぜ盗撮写真を持っているのか、そもそもなぜ盗撮なんてしたのか。ただ、蛍さんは南中だと言っていたから、東中にいた誰かに写真を撮ってもらったのだろう。蛍さんが私の盗撮写真を持っている理由も気にはなるけれど、その協力者も同じくらい気になるところだ。


(とぼ)けても無駄、他にもあるし」


 ピッピッピッと蛍さんの元カノがボタンを押せば、追加で三枚、同じような写真が出てきた。ただ、そのうちの一枚だけはカメラ目線だ。なんなら陽菜と一緒に映っている。

 それが最後の一枚だったこともあって、ついじっと見つめて考え込んでしまった。文化祭の作業中にふと顔を上げた、そんな図で、私の隣にいる陽菜が先に気付いてピースをしている。そして写真にうつりこんでいる作業内容から考えれば、中学二年生のときだと分かる。


「ほらね、言い訳できないでしょ」


 考え込んでしまっているのを()が悪くて黙り込んでいると勘違いされてしまった。でも、この際そんなことはどうでもいい。


「……この蛍さんの写真って蛍さんが撮ったものじゃなさそうですよね。誰が撮ったものなのか知ってます?」

「話逸らさないでくれる?」


 中学二年生のときのクラスメイトで蛍さんと関係がありそうな人――考えて真っ先に浮かんだのは荒神くんだ。ただ、文化祭準備中は他のクラスの人の出入りも多く、クラスメイトで絞りをかけるのは早計かもしれない。でも私と陽菜の写真を撮る相手なんて限られている……。