ぼくらは群青を探している

 浮島には当然他の遊泳客もいて、しかも内陸部より沿岸部が人気だ。桜井くんと雲雀くんは角を陣取るように座っていたけれど、胡桃が桜井くんの隣に腰かけてしまえば、他の遊泳客がいるので沿岸部には座るスペースはなかった。いそいそと雲雀くんの後ろに座ると「場所変わるか? 浮島の感触って微妙じゃね」と振り向かれたので、細やかな気遣いが雲雀くんらしくて「ううん、大丈夫」と答えながら笑ってしまった。


「昴夜と侑生、どっちが勝ったの?」

「俺でしたー」

「お前マジで体力バカだよな」


 後ろで知らない人が「見て、あの子めっちゃ可愛い」「どれ?」「あのオレンジの」と話すのが聞こえた。つい、話をしている人達でなく胡桃を見てしまう。サラサラのツインテールは海水に濡れてもこれっぽっちもぐちゃぐちゃになっていない。私は早々に海に落とされてぐしゃぐしゃのポニーテールになってしまったというのに、酷い差だ。


「あれどう見ても隣がカレシだろ。聞こえるぞ」


 胡桃の隣は桜井くんだ。私も桜井くんの後ろ兼隣なので、座っている位置的には「どこからどう見ても胡桃と桜井くんがセット」なんてことにはならないはずなのに、何も知らない人からはそう見えるらしい。

 胡桃は「英凜と昴夜が二人いるところ見たって付き合ってるようになんか見えない」と言っていたのに、胡桃と桜井くんはそうではないらしい。桜井くんに問題がないということは問題は私だ。はて、と首を捻る。その違いは何なのだろう。顔の問題だろうか。


「昴夜、帰りも泳ぐの?」

「んー、さすがに疲れた、ってか腹減った。胡桃の浮き輪でも捕まりながら帰る」


 でも私と桜井くんより胡桃と桜井くんのほうが幼馴染として距離が近いのだから仕方ない。きっとこういうとき、私と胡桃どちらの浮き輪でもいいのに胡桃の浮き輪を指定するところとか、そういう細かいところにその距離は現れているのだろう。


「あー、魚」

「え、どこ」


 膝に頬杖をついていた雲雀くんが不意にぼやくので、雲雀くんの背中から海面を見た。でも海面から離れすぎてて見えない。まるで子供のように反応した私に「魚くらいいるだろ」と隣の桜井くんが笑った。


「いる……いるけど、ほら、分かってても見たいものってあるじゃん」

「あー……あるね。ホラー映画とか」

「同じにしないでほしい」


 ぱたぱたと手を横に振りながら、雲雀くんが避けてくれるのに合わせて浮島から海面を見た。いてもおかしくないくらい澄んでいるけれど、それでもさすがに見えない。


「ゴーグルやろうか?」

「あ、ありがと」


 雲雀くんの首にひっかけられていたゴーグルを受け取り、さすがに浮島から海の中を覗き込むとそのまま落ちるし、だいぶ間抜けな状態だと気付いて、浮き輪を装着して早々に海に落ちた。胡桃が「英凜、意外と少年なんだ」と笑っているのが聞こえた。

 でも、もう魚はいなかった。ゴーグルをつけた視界に広がってるのは透明な、澄んだ海と、波の痕が残る海底だけだ。手を伸ばせば届きそうなのに、およそ届きようのないほど、遥かに遠く、深い海底。

 そういえば、群青って、そのまま英訳するとUltramarineだったな。授業中に暇を持て余して、なんとなく辞書を引いたときの写真を思い浮かべた。

 ぷはっと顔を上げると「魚いたー?」と桜井くんの声が聞こえたので「いなかったー」と返事をしながらゴーグルをとった。その拍子に、髪が(から)まってしまった。水泳ゴーグルは水泳キャップがないと扱いづらい。