笹部くんのプライドに私が関与してしまっているかどうかより、能勢さんのことのほうが気になった。いかんせん、胡桃の口から能勢さんの話を聞くのは初めてだ。なんなら二人が喋っているところを見たことがない。さっきビーチパラソルの近くにいたときも、胡桃と能勢さんが喋っている様子は見た覚えがない……。
「……胡桃って能勢さんのこと苦手だったりする?」
「え、なんで」
ぱちくり、とその大きな目が余計に大きく開かれた。
「……そういえば能勢さんと喋ってるところ見ないなって」
「んー、んー、苦手じゃないんだけど。なんかよく分からないとこあるよね、何話しても煙に巻かれるっていうか」
ものすごく分かる。何を話しても、あの穏やかな笑みと口調に流されて、本旨が分からなくなってしまう、そんなイメージがある。実際、能勢さんが新庄と組みながら私に親切にする意図は、あの笑みの裏に隠されてしまっているのだから。
そしてそのタイプは、考えてみれば桜井くんとは真逆な気がした。幼馴染として桜井くんに慣れている胡桃にとって、能勢さんは最も知らないタイプというか、縁遠いものなのかもしれない。
「九十三先輩とかはね、いいよね。年上だし、イケメンだし、背も高いし。もー、本当に頭さえよければタイプなのに……」
「頭の良い人が好きなの?」
「え、うん。英凜はそうじゃないの?」
「うーん……あんまり考えたことはなかったけど……」
私の恋愛は初恋で止まっている。しかも初恋といっても、小学三年生のときに、ありがちにクラスで人気者の男子を好きで、ありがちに私はクラスの日陰者 (とまでは言わないけどそれに近い)で、同じ教室にいながらもその世界線は交わることなく終わった、といった感じだ。
だから人並みに男子のことは好きなんだろうな、とは思うのだけれど……、どちらかというと会話に気を付けるほうに頭を使ってばかりで疲れてしまうので、そんな感情任せのことをしている余裕がない。
とはいえ、今ここで考えるとすれば、あの初恋はクラスの隅っこにいるしかなかった私がクラスの中心人物に憧れたようなものだろうし、そう考えると私の恋愛はきっと一種の憧れと整理できるのだろうし、頭の悪い私は自分より頭の良い人を求めてしまうのかもしれない。
「……そうだね。私も私よりは頭の良い人がいいかも」
「でしょ。あんまり頭いい人なんていないけどね」
そうかな。でも桜井くんも雲雀くんも私より頭が良いんだろうし、能勢さんなんてきっと恐ろしいほどそうだろうし、意外とそのへんにごろごろいるんじゃないかと思うけどな。
そんな話をしているうちに、桜井くんと雲雀くんは浮島にたどり着いてしまって、座ってこっちに手を振っていた。二人で手を振って暫く、やっと私達も浮島に辿り着く。
「遅かったな」
「昴夜たちが早い! 意外と遠かった!」
浮島の上に座る二人は当然のことながら髪までぐっしょりと濡れていて、揃って後ろに掻きあげているので知らない人みたいになっていた。その髪のせいか、例によってちらちらと浮島の上の人の視線を集めてしまっている。
胡桃が浮島に片手をかけ、もう一方の手を伸ばす。桜井くんは海に足を投げ出して座ったままその腕を引っ張った。
「三国」
「え、あ、ありがと」
私は雲雀くんに腕を引っ張られた。浮き輪をまとっているので、海から出てしまうとなんとも間抜けな図だ。浮島に座り込んだ後、いそいそと浮き輪を体から取った。
「……胡桃って能勢さんのこと苦手だったりする?」
「え、なんで」
ぱちくり、とその大きな目が余計に大きく開かれた。
「……そういえば能勢さんと喋ってるところ見ないなって」
「んー、んー、苦手じゃないんだけど。なんかよく分からないとこあるよね、何話しても煙に巻かれるっていうか」
ものすごく分かる。何を話しても、あの穏やかな笑みと口調に流されて、本旨が分からなくなってしまう、そんなイメージがある。実際、能勢さんが新庄と組みながら私に親切にする意図は、あの笑みの裏に隠されてしまっているのだから。
そしてそのタイプは、考えてみれば桜井くんとは真逆な気がした。幼馴染として桜井くんに慣れている胡桃にとって、能勢さんは最も知らないタイプというか、縁遠いものなのかもしれない。
「九十三先輩とかはね、いいよね。年上だし、イケメンだし、背も高いし。もー、本当に頭さえよければタイプなのに……」
「頭の良い人が好きなの?」
「え、うん。英凜はそうじゃないの?」
「うーん……あんまり考えたことはなかったけど……」
私の恋愛は初恋で止まっている。しかも初恋といっても、小学三年生のときに、ありがちにクラスで人気者の男子を好きで、ありがちに私はクラスの日陰者 (とまでは言わないけどそれに近い)で、同じ教室にいながらもその世界線は交わることなく終わった、といった感じだ。
だから人並みに男子のことは好きなんだろうな、とは思うのだけれど……、どちらかというと会話に気を付けるほうに頭を使ってばかりで疲れてしまうので、そんな感情任せのことをしている余裕がない。
とはいえ、今ここで考えるとすれば、あの初恋はクラスの隅っこにいるしかなかった私がクラスの中心人物に憧れたようなものだろうし、そう考えると私の恋愛はきっと一種の憧れと整理できるのだろうし、頭の悪い私は自分より頭の良い人を求めてしまうのかもしれない。
「……そうだね。私も私よりは頭の良い人がいいかも」
「でしょ。あんまり頭いい人なんていないけどね」
そうかな。でも桜井くんも雲雀くんも私より頭が良いんだろうし、能勢さんなんてきっと恐ろしいほどそうだろうし、意外とそのへんにごろごろいるんじゃないかと思うけどな。
そんな話をしているうちに、桜井くんと雲雀くんは浮島にたどり着いてしまって、座ってこっちに手を振っていた。二人で手を振って暫く、やっと私達も浮島に辿り着く。
「遅かったな」
「昴夜たちが早い! 意外と遠かった!」
浮島の上に座る二人は当然のことながら髪までぐっしょりと濡れていて、揃って後ろに掻きあげているので知らない人みたいになっていた。その髪のせいか、例によってちらちらと浮島の上の人の視線を集めてしまっている。
胡桃が浮島に片手をかけ、もう一方の手を伸ばす。桜井くんは海に足を投げ出して座ったままその腕を引っ張った。
「三国」
「え、あ、ありがと」
私は雲雀くんに腕を引っ張られた。浮き輪をまとっているので、海から出てしまうとなんとも間抜けな図だ。浮島に座り込んだ後、いそいそと浮き輪を体から取った。



