ぼくらは群青を探している

 ざぶざぶと波を掻き分けて戻る間、ティシャツを脱いだ駿くんが私よりだいぶ浅瀬に投げられるのが見えた。でも例によって先輩達は浅すぎず深すぎずの位置を計算しているのだ。遊びに注ぐ先輩達の労力は体力だけではないらしい。

 海水を(したた)らせながらパラソルの下に戻ると、胡桃が私のぶんの浮き輪まで持って「大丈夫?」と苦笑いしていた。こういう可愛さがあれば私も投げられずに済んだのかもしれないけれど、顔は遺伝子の問題なのでどうしようもない。


「……私も胡桃くらい可愛ければ……」


 可愛ければ、投げられずに済んで……、なんだ? 無理矢理投げられたのはその通りだったけれど、胡桃の顔を羨ましがるほど悲観しているわけではないので、はて、と頭の中で疑問符が浮かんだ。


「英凜のあれはほら、群青の先輩達に愛されてる証拠だから。ね、浮島(うきしま)行こ。昴夜も行くでしょ?」

「んー、行く」


 胡桃のいう浮島というのはただの通称で、遊泳可能区域の境界の少し手前にある浮標(ふひょう)の集合体みたいなもののことだ。正式名称は知らない、ただ、浮標のように海にぷかぷかと浮くゴム製の直方体の物体がいくつも連なっていて、まるで巨大なゴムボートのように海面に浮いている。海岸からは少し距離があるので、体力がないと浮き輪必須(ひっす)だ。


「侑生は?」

「……行く」


 能勢さんの隣でデッキチェアに寝転んでいた雲雀くんが(わずら)わしそうに起き上がった。能勢さんは荷物当番になったのだろう「じゃーね」と手を振られた。


「昴夜、浮き輪は?」

「いらねーよ、馬鹿にしてんの」

「さすがに浮島までは体力が足りないんじゃ……」

「ね。しかも海で浮き輪ないの怖くない?」

「なんかあったら英凜か胡桃のに捕まればいいだろ。泳ごーっと」


 桜井くんはペタペタと足の裏に砂をくっつけながら歩き、その腕ではくるくると水泳用のゴーグルを(もてあそ)ぶ。そしてその後ろをテテテッと胡桃が追いかける。本当に可愛い。あれが幼馴染なのに好きになっていない桜井くんはどうかしている。


「……三国マジで容赦(ようしゃ)なく投げられたな」


 じっとその後ろ姿を見ていると、隣の雲雀くんに意識を()らされた。その手には同じく水泳用のゴーグルがあって、桜井くんといい、どうやら本気で海で泳ぐつもりらしい。私にとって海はぷかぷかと波に揺られて漂うところなのだけれど……。


「……蛍さんも私は特別とか言うしね」

「いんじゃね、特別なら」

「普通でいいよそこは」

「ゆーき、浮島まで競争しようぜー」

「何十メートルあると思ってんだバカ」


 叫び返しながらも、雲雀くんはスタートラインよろしく桜井くんの隣に立つし、胡桃の「じゃ、よーいどん」とゆるっとした掛け声で海なのに泳ぎ始めてしまった。しかもクロールだ。ちなみに群青の先輩達のせいか、この一帯の遊泳客は極端に少ないので、二人がクロールをしていても迷惑がる人はいない。


「本当、あの二人体力バカだよね。っていうか少年すぎ」

「……毎年あんな感じなの?」


 その口調からつい尋ねてしまったけれど「さあ? あたしも中学は二人と別だったし」と肩を(すく)められた。そういえば雲雀くんもそんなことを言っていたな、胡桃が桜井くんと話し始めたのは高校になってからだと。


「ていうかさー、昴夜と侑生って英凜の前でもあんな感じなの?」

「あんな感じって?」