ぼくらは群青を探している

「え、いや、能勢さん、そんな無理にしなくていいです……」

「いいよ、まあ多少肺はちゃんと鍛えてあげたほうがいいし」


 そうして、能勢さんは私の手から浮き輪を受け取る。他の先輩と同じように、私に親切にする。こんなどうでもいいことまで、親切に。


「てか芳喜、煙草やめたら? 見た目しかよくねーよ」

「まだやめられる気はするんですけどね、口が寂しいんですよ。俺が棒付きキャンディなんて()めてたらキャラに合わないでしょ」

「そうしたほうがモテなくなっていいんじゃね、お前」


 困惑して思考が止まってしまっていると「英凜、英凜、写真!」と胡桃が腕を組んだ。その手にはデジカメがある。胡桃はすぐに腕を組むしすぐに写真を撮ろうとするけれど、これが明るい人間と暗い人間のコミュニケーション方法の違いかもしれない。


「……水着の写真はさすがに」

「え、水着だからよくない?」

「滝山ァ、胡桃ちゃん達の写真撮ってやって」

「……いいですけど」


 九十三先輩はこういうものは喜んで撮らないのか、と首を傾げてると「ほら砂で汚れてるから」と両手を見せられた。納得したと同時に心を見透(みす)かされていることに気が付き、九十三先輩が自分のキャラクターを的確に把握していることを知った。それはさておき、滝山先輩は非常につまらなさそうな顔で私達の写真を撮るので非常に申し訳ない気持ちになった。


「……すみません、滝山先輩……」

「いいよ別に。何もすることないし」


 浜辺に連れてこられた時点で今夏の最大不幸を更新した、みたいな顔をしている。申し訳なさを(つの)らせる私の隣で、九十三先輩が「いーよいーよ、気にしないで三国ちゃん。コイツ、マジでインドアってだけだから。三国ちゃん達が来なけりゃ今日だって来てねーよ」と何をどう気にしないで済む理由になるのか分からないことを言われた。余計に申し訳なさが募る。


「え……なんかすみません、私達のせいで……」


 当然、そんなことは胡桃も聞いていたので、しゅんとしたように(まゆ)(じり)を下げた。美少女の消沈(しょうちん)した顔には、それだけでこちらが全面的に悪者になってしまったかのような威力がある。私だけでなく、九十三先輩も滝山先輩も飛び上がった。


「ごめんごめんそういう意味じゃないから! むしろ胡桃ちゃんが来るって聞いたからこの根暗メガネも海に出て来る気になったっていうか!」

「根暗メガネは言い過ぎじゃないですか! 牧落、本当に気にしなくていいから! 夏だから海くらい来たかったし!」


 本当に胡桃の顔面偏差値の威力はすごい。私との態度の差で程度の差を思い知らされた気分だ。同時に、能勢さんはしらっとした顔で浮き輪を膨らまし続けているので、いかに百戦(ひゃくせん)錬磨(れんま)であるかが分かった。


「胡桃ー、浮き輪これでいい?」


 そして幼馴染の桜井くんも同じくだ。ポンポンと浮き輪を叩いて空気の量を確かめて胡桃に投げる。胡桃はややよたっとしながらそれを受け取った。


「いい! ありがとー!」

「……胡桃ちゃんってマジで可愛いな」


 九十三先輩の横顔は、(くや)しいが一本取られた、とでも聞こえてきそうだった。私のその読みが合っていたとして、何が悔しいのかは知らない。


「三国ちゃんも、浮き輪これでいい?」

「あ、結局すみません、ありがとうございます……」