ぼくらは群青を探している

 当たり前のような顔をしてしわくちゃの浮き輪を差し出す胡桃に目から(うろこ)が落ちた。私のボディバッグにも小さく丸めた浮き輪が入っているのだけれど、疲れるし面倒くさいし膨らますのは諦めていた。でもそうか、男子に膨らませてもらうという手があったのか……。便乗して桜井くんに頼もうか、一瞬悩んだけれど、さすがにそんなことをしたら桜井くんが酸欠になるのでやめておこう。


「えー、誰か先輩にやってもらえば? 喜んでやってくれそう」


 ……なんてことを考えていたら、桜井くんの発想が気持ち悪さのど真ん中を打ち抜いてきた。誰であれあまり想像したくない光景だ。


「だから昴夜に言ってるんでしょ。昴夜そういう下心ないじゃん」

「……はいはい」


 胡桃が差し出す浮き輪を桜井くんは渋々受け取り、そのままパラソルの下に座り込んだ。あぐらをかきながら「つかなんか機械で膨らますやつあるじゃん、あれは?」「うちからそれやって来たら邪魔でしょ。レンタルはすっごい並んでたから」「あーそう」と仕方なさそうに膨らまし口を探す。その隙にといわんばかりに胡桃はガッシリと私と腕を組んだ。


「え、え、な、なに」

「水着着てる?」

「着てるけど……ちょっ──」


 あまりにも躊躇なくティシャツの胸元を引っ張って中を覗き込まれた。デジャヴだ。慌てて押さえるけどもう遅い、胡桃はにんまりと何かを(たくら)むような笑みを浮かべた。


「脱がないの? 早く海入ろ」

「いや……、その……準備運動とか……あるし……」

「脱いでからでいいじゃん! ね、英凜が脱げば私も脱ぎやすいし」


 ()らすように、胡桃はパーカーの金具を揺らした。確かに私と違ってその服の下は大いに期待されていることだろう。


「……いい、けど……」

「っていうかあの子は来ないの? ほら、英凜とよく一緒にいる池田さん」

「陽菜は今日はプールだって」

「えー、マジ」


 そう反応したのは九十三先輩だった。駿くんを連れてやってくるから、早々に怪我でもしたのかと思ったら「喉渇いたつーから」「英凜ちゃん、水筒を取ってくれ」というだけだったので安心した。胡桃と桜井くんが「英凜の弟?」「いや、従弟だって」と遣り取りをする。


「陽菜ちゃん来ないのかー。俺あの子結構好きなんだけどな」

「初耳です」

「普通に可愛くない? てか三国ちゃんのクラス、レベル高いよねー」

「さすがに一年は幼く見えません? この間まで中学生ですよ」

「よく言うよ、特別科の一年でお前に食われたヤツいるって聞いたぞ。てか昴夜なにやってんの?」

「胡桃の浮き輪膨らませてる」


 疲れてきたのか、桜井くんは浮き輪と一緒に膨れっ面だ。でもそこは主従関係が成立しているらしく「ほら昴夜がんばって!」と胡桃が(はげ)ませば、桜井くんは仕方なく続ける。桜井くんの予想に反して九十三先輩は特に(うらや)ましそうな素振りは見せないので安心した。


「九十三先輩、すいません、駿くんと遊んでもらって……」

「いーよお、つーか主に遊んでるの常盤(ときわ)だし。アイツ、ガキ好きだからさあ」


 そういう九十三先輩も、水筒を戻す駿くんに向かって「おいちゃんと飲んだのか? 水はケチんなよ」なんて声をかけているし、駿くんが戻ってくれば屈みこんで視線を合わせるしし、当初の予想以上に面倒見がいい。その様子を見ていた桜井くんがひょいと駿くんの前に顔をだす。


「てか英凜の従弟、何歳?」

「七歳、小学一年生だ」