ぼくらは群青を探している

「どうなんだろうね。仲良くなると頭使う量も減ってくるし……」

「そういうもん?」

「まあ、その人の表情とか文脈とか読みやすくなるし。でもそうやって油断してるときはうっかり変なことか、言っちゃいけないこと言ってるかも」

「ああ、俺が牧落を嫌いだとかな」


 思わぬ方向から言葉のナイフが飛来した。お陰でグサリと胸に突き刺さり、そのままウッと詰まる。勉強会で口を滑らせてしまったときの話だ。


「それは……まさしく油断してて……ごめんなさい……」

「別にいいけどな。しいていうなら牧落の前で言ってほしかった」

「そんなことできるわけないじゃん!」

「そういやさー、お前なんであんなに胡桃のこと嫌いなんだっけ?」

「普通にイキッててうざくね?」

「クッソ」


 あまりにもシンプルな暴言に、桜井くんはげらげらとお腹を抱えて爆笑した。幼馴染なんだからもっとフォローするなりなんなりすればいいのに……。というか雲雀くん、話が通じなくて面倒くさいとか女装に協力されたのを許してないとかいろいろ冗談ぽく言ってたくせに、本当は本当に無理なんだな……。前回うちで「大して仲良くない」を否定しなかったのが精一杯の気遣いだったのかもしれない。


「あと選民主義っぽいところあるよな」

「選民主義?」

「自分をすげーと思ってるよな」

「自信があるのはいいことじゃない?」

「その自信の根拠だよ。すっげーたまたま、アイツが中学のときに友達に話してるの聞いたことがあんだけど」雲雀くんは気だるげに肘置きに右腕をついて乱暴な口ぶりで「自分がいかに非の打ちどころのない人間かつーのを話してて、その理由のひとつに両親が揃ってるってのを挙げてて、普通にドン引きした」


 ……非常に、反応に困った。いまだかつて、こんなにも返事に困る文脈はなかった。それはちょっとデリカシーがないよねー、なんて一応両親が揃っている私が軽率に共感しているふりをすることなんてできないし、なんなら共感性がないと自白した直後なのにそんな回答をするなんてロボットが模範解答を出したようにしか見えないだろう。そんなものはまごうことなき偽善だ。


「あー、まあそれは仕方ないんじゃん?」でも桜井くんは大して気まずさもなさそうな顔で「アイツ、両親がそんなだもん。んで親に教えられたことが子にとっての常識じゃん。だから胡桃の常識じゃ両親が揃ってないってのは欠点なんだぜ、多分」


 何のフォローにもなっていない……ことはない……? でも事情が違うとはいえ同じ片親の桜井くんが言うのだから仕方がないと割り切って終わっていいものなのだろうか……?

「つまり牧落がバカなのが悪いってことか?」


 そして雲雀くんの苛立ちが収まる気配はない、と。


「んー、まあ侑生と死ぬほど合わないんじゃん。てかそれは分かってたことだし」


 桜井くんは肯定も否定もせずに流した。


「つか、百歩譲ってそういう思想持ってんのはどうでもいい。親世代とかそんなだし。それより、そういう思想持ったうえで俺とどんな気持ちで会話してんだ? って思う。話しかけてくんじゃねーよって」


 それでも雲雀くんの口から胡桃への罵倒が止まらない。でもその罵倒自体は……、どうにもこうにも擁護しきれないところがある。それに、思想を持つこと自体は否定しないがその思想を持っておきながら俺に近づくな、という雲雀くんの意見があまりに理性的だというのも、どうにも胡桃を擁護できない理由のひとつでもあった。