ぼくらは群青を探している

 きっとそんな私の有様に気付いたのだろう。雲雀くんはすぐに手を引っ込める。


「あ……ごめん、大丈夫……」

「そこは無理しなくていい」

「大丈夫、雲雀くんだから……」


 目で認識した情報はそうだったけれど、むしろ、心の中では、味方だと分かっている誰かに寄りかかりたくて仕方がなかった。自分でも呆れてしまうほど甘えた欲望だったけれど、絶対に安心できる誰かにしがみつきたくてどうしようもない。

 その甘えの対象を、目の前にいるからというだけで雲雀くんにするおとを──雲雀くんには申し訳ないけれど──どうしても我慢できなかった。咄嗟(とっさ)には「男子」という(くく)りに感じて本能的に(おび)えてしまったけれど、雲雀くんがそんな乱暴な括りに入らないのは、思考では分かっている。だからさっきのは、目で認識できた情報が少なすぎて、そして思考が充分に回っていなかった結果の、いわばエラーで、雲雀くん相手なら大丈夫なはずだ。

 手を伸ばすと、雲雀くんは少し困った顔になって、それでもゆっくりと手を伸ばし返してくれる。帯の横を、おそるおそる手が滑るのが分かった。

 本能的には、やっぱりどこか怖かった。結局この人も男だ、さっきまで私を組み敷いていた男と何も変わらない男。そこに信頼関係があってもなくても、男であることには変わりない。

 それでも違うと思い込みたくて、自分を騙したくて、無理矢理その肩に手を回す。大丈夫だ。大丈夫、この人のことは知ってる。この人は私に何もしない。

 背中と帯の上の腕の力が、ゆっくりと強くなる。ドクリドクリと、一定の、乱れのない心音が伝わってくる。大丈夫、大丈夫だ、雲雀くんなら大丈夫なはずだ。現に静かな心音は私への関心の平淡さの(あらわ)れな気がして、そう考えると心地よくて、抱き着いたまま目を閉じた。


「……おい三国」


 一人で勝手に安心してしまって、しびれを切らしたような雲雀くんの声にハッとした。


「移動するつったろ。これだとさすがに無理」

「ご、ごめん……」

「横から抱えるから」


 慌てて手を離すと、雲雀くんは問答無用で宣言のとおりに横から私の背中と膝下にもう一度手を伸ばす。一瞬心臓が跳ねたけれど、無視することにした。


「下駄持ったままでいいから、手、肩に回せ」


 おそるおそる言われたとおりにしたけど、腕を載せただけだったせいで「体重かけろ。落ちるだろ」と注意された。

 でも、この体勢で体重をかけると、それは、まるでお姫様抱っこだし、なにより雲雀くんに抱き着く形になるのでは……。


「さっきまで散々抱き着いて離れなかっただろ。今更なに恥ずかしがってんだよ」

「え、え、な、なんで分か……」

「落ちるなよ」

「ひゃっ……」


 私の躊躇(ちゅうちょ)がどこにあるのか正確に理解していたくせに、結局、雲雀くんは無理矢理私の体を抱えあげた。ひょい、ひょいと雲雀くんが私の体を揺らして位置を整えるので慌ててしがみつく。電車の中のときより、更に近くに雲雀くんの肌があった。唇が触れてしまいそうなほど近くだ。お陰でさっきまでとは違う動悸(どうき)がし始める。


「つか、ケータイ持ってないけどどうした?」

「……ここに連れて来られるまでに落とした」


 返事をすると雲雀くんが軽く首を動かした。首に蚊でも止まったような仕草だった。


「……どうかした?」

「あんま首の近くで喋んな。くすぐったい」