ぼくらは群青を探している

「蛍さんと能勢さんには言わないでください。いやなんでとかないんで。紅鳶神社の北にある古い(やしろ)、分かります? は? 社つったら社ですよ……古い木造の建物です。そこ来てください。……じゃあさっさと()いてくださいよ。三国のためです」


 一体、この二人に何が起こったのだろう。いや、もう頭は回り始めていたので、自分含め、何が起こったのかは分かっていた。

 陽菜と引き離された後、この(やしろ)の前で押し倒されて襲われそうになっていたのだ。襲われそうというか、それは「襲う」の定義にもよるけれど、間違いなく浴衣を半分脱がされていたことは間違いない。さらしの上から胸を触られた感触と、さらしを()がそうと指をひっかけられた感触が残っている。腰から下もしっかり(めく)られ、太腿が(あら)わになっていた。……そして、手以外の感触は、舌だ。そう分かった瞬間、ぶるっと悪寒が走った。

 雲雀くんに右に左に引っ張れと言われたときは何のことか分からなかったけれど、私の手で浴衣を整えさせたのだ。きっと、雲雀くんは私が襲われている瞬間を見たから、私の肌に触れまいと……。

 そして、雲雀くんがその瞬間を見ていたからこそ、犯人二人がこの有様。今になって、あの時に聞こえていた鈍い音や(うめ)き声の説明がついた。きっと、雲雀くんに手を出された次の瞬間には逃げ出そうとしたのだろう──殺されるとでも恐怖したように。そして、泣くような懇願(こんがん)の原因は、きっとあの曲がった腕だ。


「つか」電話を終えた雲雀くんがパチンと携帯電話を閉じて「悲鳴上げたのに昴夜が来ないつーことは近くにいなかったな。花火やってるつったって、さすがにあの悲鳴は聞こえてんだろ」


 その悲鳴は、あの男が、腕を折られたときのものだろうか。ぎゅう、と雲雀くんのティシャツを更に強く握りしめる。……自分がどうやって助けてもらったのか、やっと理解した。


「……三国、歩けるか?」


 ぽんぽん、と背中をまた撫でられた。


「九十三先輩、駅降りたタイミングで足止め食らってたらしい。多分深緋の連中だな。だから九十三先輩が来るには時間がかかり過ぎる、んであの二人がここに連れて来たってことは、深緋の連中が集まってもおかしくない。その恰好で悪いけど、さっさとここからは出ときたい」


 ……先輩達が深緋に足止めを食らっているということは、やはり全員がグルではない。とはいえ、足止めされるということは、群青のメンバーにこの場に来られるのは困ると考えていたということだ。つまり、おそらく目的は私達四人──桜井くんと雲雀くんだ。そう考えると、確かに人気(ひとけ)のないところにいるのは危険だ。

 雲雀くんのティシャツを離すのは怖い。でも、ここにいるのはマズイ。

 なんとか理性で、ゆっくりと、引きはがすようにして手を離した。雲雀くんは「……下駄」と縁側の下に転がっていた下駄を拾い上げてくれたけれど、私の足を見てしかめっ面をする。


「……歩けねーな」


 きっと靴擦れのことだろう。でもこんな状況で足が痛くて歩けないと喚くほど私は甘えた(たち)ではない。


「……大丈夫」

「浴衣じゃおんぶもできねーしな」


 雲雀くんは縁側から降りて、横から私の背中と膝の下に手を伸ばす。

 浴衣越しとはいえ、男子の腕だった。目でその情報を認識した瞬間、突然“雲雀くん”ではなく“男”だというメタ情報としてしか捉えられなくなってしまった。