ぼくらは群青を探している

「っていうのもあるし、群青の一個上の先輩達に山田と豊津がいるのは事実。その群青の一個上の先輩達の苗字を使ったのに、名前は間違ってた。ってことは、山田と豊津はいわゆる抗争相手として把握してたのを咄嗟(とっさ)に答えただけ。苗字で呼び合われてる人達なら外部の人が認識してておかしくないし」


 陽菜の手を離して携帯電話を取り出し、迷わず雲雀くんに電話をかけた。コール音を聞きながらも足を進めれば、じりじりと足の指の間が熱を持ち始めるのを感じる。鼻緒(はなお)と皮膚の摩擦で皮が捲れてしまったのだろう。早歩きでも下駄はかなり厳しい。


「どこまで考えてたのかは分からないけど、わざわざ当時の姫の名前を出してたのは、群青のOBだってことに信憑性(しんぴょうせい)を持たせるため。ニックネームまで話すなんて、妙に具体的だなとは思ったけど、でもだから信じちゃう。蛍さん達が深緋の動きがきな臭いって話してたから、そういう周到さを見せるのは深緋なんじゃないかなって……」


 プツッと音がして「どこ?」と雲雀くんの声が聞こえた。慌ててあたりを見回して「紅鳶神社の階段降りるところ!」数メートル先を口にした。


「なんでそんなとこいんの?」

「深緋っぽい人がいたから逃げた。お願い、階段下で──えっ」


 ブツッと電話が切れた。驚いて画面を見るけど「通話終了」としか出ていない。まさか雲雀くんにも何かあった……?

「どした英凜」

「……雲雀くんとの電話が切れた」

「……まさか」


 陽菜の顔が青ざめる。きっとその頭の中にあるイヤな予感は正しい。でも振り返ったところで、桜井くんと雲雀くんの居場所が分かりそうなほどの乱闘騒ぎは見えない。お祭りのこの喧噪じゃ、聞こえることもないだろう。


「……英凜、これ、もしかしてヤバイ……?」

「……いや……、でもさっきの二人組は()いたし、どうせこの中じゃ浴衣姿の私達なんて見つけられない……」


 ──あれ、なんで、さっきの二人は陽菜に声をかけたんだ? ふとその疑問が()いた。

 深緋の人だとしたら、新庄が写真を持っているから、私の顔は知っているに違いない。でも陽菜の顔写真が出回っているなんて聞いたことがないし、そもそも陽菜は桜井くんと雲雀くんと仲が良いといったって、私ほど二人と一緒にいることはない。現に陽菜が誰かに襲われたこともない。それなのに、さっきの二人は、わざわざ陽菜相手に群青のOBだなんて名乗って、陽菜と私を(だま)そうとした。

 なぜ、さっきの二人組は、陽菜を狙い撃ちできたのだろう。まるで、陽菜がいる近くには私がいると分かっていて、そしてその陽菜と私は紅鳶神社の休憩所に入ったのだと分かっていたかのように。

『もともとこっちは三国の友達入れて四人の予定だったんですよ』

 私と陽菜が、桜井くんと雲雀くんと一緒にお祭りにいると知っているのは、終業式の日に教室に来ていた蛍さん達、つまり群青の先輩達だけ──。

『私達は紅鳶神社の休憩所です。先輩方が着く頃も境内にいると思います』

 私は、九十三先輩に──蛍さんと能勢さんと一緒にいる九十三先輩に──居場所を伝えた。

 その事実に気付いた瞬間、ゾワッと総毛(そうけ)立った。

 次の瞬間には陽菜の腕を掴んでいた。


「陽菜、逃げよ」

「え、え、なんで? 雲雀と桜井待ったほうが──」

「九十三先輩から一色駅ってメールがきたのが十八時五分、一色駅から紅鳶神社まで十分、駅からここまで来るのに十分、今が──」