その二人は口を歪めて笑いながら「俺らのときも姫いたよなー」「ユイカさんだっけ?」「ユイナじゃないっけ?」「あれ? みんなユイユイって呼んでたから、どっちだっけな」と妙に具体的な思い出話をした。でも当時の群青の姫の名前なんて知らないので判断のしようがない。
そもそもこの人たち、群青のOBといってもどのくらい上なのだろう。高校生に見えなくもないから、離れていてもせいぜい二歳だろうか。
「え、で、いま君が姫なの? 蛍の彼女?」
「違いますが……」
「あれ、違うんだ。さすがに一年には手出さないのか」
なぜ一年生と分かったのだろう──つい疑心暗鬼になってしまったけど、陽菜が「あ、さっき一年って話したんだ」と横から耳打ちした。考えすぎ、か……。
「てか蛍ってまだ煙草嫌いなの? アイツ、父親のせいで煙草嫌いなんだよな」
そんな中、不意に飛び込んできた初耳の情報に、またぱちくりと瞬きしてしまった。
「……そうなんですか?」
「なに、蛍もそういう話はしねーの?」トントン、とその人は煙草の灰を落としながら「アイツ、父親がDVで煙草やってたから煙草嫌いなんだよ」
……初耳過ぎる。でも、煙草を吸う人間の口に煙草を突っ込むくらいだ、筋金入りの嫌煙家であると予想はつくし、そのくらいの理由があるほうが頷ける。
ふと、そう考えていて妙な違和感を覚えた。
蛍さんはDVの父親が原因で筋金入りの嫌煙家。今まで聞いたことのない情報。きっと蛍さんの煙草嫌いが有名だというのなら、誰かは理由を気にしたはずで、もしかしたら蛍さんはそれを隠していないかもしれなくて、それなのに誰も私達に話していない情報……。
「てか、姫じゃないけど蛍のお気に入りってことはなに、君もワケアリ?」
「……え、」
ワケアリ……? さっきの違和感が少しずつ形になっていく。私も、ワケアリ……。
「……まあ、私も、そうですけど……」
「あー、まあだろうねー。蛍の代から、群青ってそういうワケアリの集まりになったんだよな」
蛍さんの代から、ワケアリの集まり。桜井くんと雲雀くんは、ワケアリ。蛍さんも、父親がDVのワケアリ。能勢さんも、もしかしたらお姉さん絡みの、ワケアリ。九十三先輩も、きっと。
そういえば、蛍さんは言っていた──「三国英凛、お前も、男だったら群青に誘いたかった」と。
……そうだ、そういえば、あの時にも思ったんだ。蛍さんは、噂を聞いて私の名前を知ったのだとは、一言も言わなかったと。
もしかして「桜井くんと雲雀くんと仲が良い三国英凜」ではなく、「三国英凜」自体を知っていたのではないかと。
その理由は知らない。知らないけど、もしかしたら、もしかして、先輩達が私を“大好き”に見えるのは、“大好き”なんじゃなくて、蛍さんから聞いて、最初から「三国英凜」を知っているから?
だって、蛍さんが私を気に入っているという事実を気に掛けるのは、能勢さんを初めとした二年生とか、桜井くん達ばかりで、三年生は誰も「なんでそんなに蛍に好かれてるの」なんて言わない。九十三先輩にいたっては「ま、特別なんだよ、特別」なんて形容した。
パズルの絵はまだ見えない。まだ見えない、けど、大事なピースを貰った。
「俺らの代の群青って、ただの喧嘩屋だったんだけどなあ」
ただ、そのパズルの完成をここで急いても意味はない。そっと、陽菜に身を寄せながら、その二人を見上げる。
そもそもこの人たち、群青のOBといってもどのくらい上なのだろう。高校生に見えなくもないから、離れていてもせいぜい二歳だろうか。
「え、で、いま君が姫なの? 蛍の彼女?」
「違いますが……」
「あれ、違うんだ。さすがに一年には手出さないのか」
なぜ一年生と分かったのだろう──つい疑心暗鬼になってしまったけど、陽菜が「あ、さっき一年って話したんだ」と横から耳打ちした。考えすぎ、か……。
「てか蛍ってまだ煙草嫌いなの? アイツ、父親のせいで煙草嫌いなんだよな」
そんな中、不意に飛び込んできた初耳の情報に、またぱちくりと瞬きしてしまった。
「……そうなんですか?」
「なに、蛍もそういう話はしねーの?」トントン、とその人は煙草の灰を落としながら「アイツ、父親がDVで煙草やってたから煙草嫌いなんだよ」
……初耳過ぎる。でも、煙草を吸う人間の口に煙草を突っ込むくらいだ、筋金入りの嫌煙家であると予想はつくし、そのくらいの理由があるほうが頷ける。
ふと、そう考えていて妙な違和感を覚えた。
蛍さんはDVの父親が原因で筋金入りの嫌煙家。今まで聞いたことのない情報。きっと蛍さんの煙草嫌いが有名だというのなら、誰かは理由を気にしたはずで、もしかしたら蛍さんはそれを隠していないかもしれなくて、それなのに誰も私達に話していない情報……。
「てか、姫じゃないけど蛍のお気に入りってことはなに、君もワケアリ?」
「……え、」
ワケアリ……? さっきの違和感が少しずつ形になっていく。私も、ワケアリ……。
「……まあ、私も、そうですけど……」
「あー、まあだろうねー。蛍の代から、群青ってそういうワケアリの集まりになったんだよな」
蛍さんの代から、ワケアリの集まり。桜井くんと雲雀くんは、ワケアリ。蛍さんも、父親がDVのワケアリ。能勢さんも、もしかしたらお姉さん絡みの、ワケアリ。九十三先輩も、きっと。
そういえば、蛍さんは言っていた──「三国英凛、お前も、男だったら群青に誘いたかった」と。
……そうだ、そういえば、あの時にも思ったんだ。蛍さんは、噂を聞いて私の名前を知ったのだとは、一言も言わなかったと。
もしかして「桜井くんと雲雀くんと仲が良い三国英凜」ではなく、「三国英凜」自体を知っていたのではないかと。
その理由は知らない。知らないけど、もしかしたら、もしかして、先輩達が私を“大好き”に見えるのは、“大好き”なんじゃなくて、蛍さんから聞いて、最初から「三国英凜」を知っているから?
だって、蛍さんが私を気に入っているという事実を気に掛けるのは、能勢さんを初めとした二年生とか、桜井くん達ばかりで、三年生は誰も「なんでそんなに蛍に好かれてるの」なんて言わない。九十三先輩にいたっては「ま、特別なんだよ、特別」なんて形容した。
パズルの絵はまだ見えない。まだ見えない、けど、大事なピースを貰った。
「俺らの代の群青って、ただの喧嘩屋だったんだけどなあ」
ただ、そのパズルの完成をここで急いても意味はない。そっと、陽菜に身を寄せながら、その二人を見上げる。



