ぼくらは群青を探している

 厳密には違う言葉だったけれど、陽菜にとっては趣旨が同じであれば同じことなのだろう。


「……まあ笹部くんも昔の話だと思ってるとは思うから、ちょっと可哀想かなとは思ったけど」

「そーかぁ? だって桜井に向かって、英凜と付き合ってんのかとかなんとか言ってたんだろ? 胡桃ちゃんがいないならまだしもさあ、あんだけ桜井と噂がある胡桃ちゃんがあの場にいて、それを差し置いて英凜と付き合ってるのか聞くのって、デートなのかどうか聞きたがったんじゃね?」

「……確かに胡桃がいる横であの発言は不自然だよね」


 言われてみれば、陽菜の指摘はもっともだ。胡桃と桜井くんに付き合ってるだのそうでないだのの噂があるわけだし、胡桃も私と桜井くんの間に入って写真を撮っていたわけだし。その噂を聞いていると「桜井って胡桃と付き合ってんじゃないの?」と言うほうが自然な気がする。結局は同じことかもしれないけど、言葉として出てくるのが私であるか、胡桃であるかで、意図は微妙に変わる。もしその発言だったとしたら、笹部くんの牽制(けんせい)は対胡桃になるけれど、やっぱり私が引き合いに出ると対私と考えるのが合理的だ。


「笹部くん、胡桃みたいな美少女好きだと思うけどな」

「いや胡桃ちゃんのことはみんな好きだろ」


 それは確かにそうだ。深く頷いた。


「でもさー、恋愛って理屈じゃないからさー。笹部にとっては隣の美少女より中二のときにイケると思ってフラれた英凜のほうが気になるんじゃね? ほら、男は手に入らなかった女のほうが気になるもんだみたいに言うじゃん」

「理解しがたいよね」

「理解しがたい」


 陽菜はゲラゲラと腹を抱えて笑った。


「前もそんなこと言ってたよな、英凜」

「だってほら、笹部くんって、私と話が合わないでしょ? 陽菜が来る前にちょうど会話のミスキャッチボールがあって、やっぱり話が合わないなと思ったんだけど」


 不良と仲良くしてなかったのにいまは仲良くしてるから“変わった”という、その分類と認識と評価の甘さ。その意味では、笹部くんは何も変わってない。


「なんでこんなに話が合わない私のことを好きだなんて言ったんだろうって。それってなにかの勘違いなんじゃないのかな」


 私にとって、笹部くんは会話を続けるのが大変な人の一人だった。私は、笹部くんが発するセリフの中から、私が会話を広げることのできるキーワードを探さなければならなかった。笹部くんが視界に入ったとき、そしてすれ違うことが予想されるとき、笹部くんが過去に発したセリフの中から笹部くんが興味を持つものを見つけて、それと関連する話題を記憶の中から見つけ出して口に出さなければならなかった。笹部くんのセリフの前後の文脈からその発言の意図を一生懸命探して、論理的に正しい続きを考えなければならなかった。

 それが、笹部くんにとっては“話が合う”ということだったのだろうか。もしそうだとしたら、私にとって、それは「会話を上手にすることができた」以上の意味はなかったけれど、笹部くんにとってはそうではなかったのだろうか。私にはさっぱり分からない。


「私と笹部くんは何一つ“合う”ものがあった記憶はないんだけど、笹部くんは何か一つでも“合う”って勘違いから突っ走って間違って好きだと思い込んでたんじゃないのかな」

「……英凜」


 思ったままを口に出した私に、陽菜は二年前と全く同じ、半分呆れ、半分怒った顔と声をしていた。


「お前、本当にそれだけは笹部に言うなよ」