ぼくらは群青を探している

「……多分楽。……あの、普通に歩けるよ」


 雲雀くんが手を離そうとしないまま歩き出したので慌てて口にすると、やっと手を離してくれた。やっぱり小さい子かなにかだと思われているに違いない。


「荷物」

「え?」

「貸しな。なんもないほうがいいだろ」


 歩きながら、雲雀くんはなんでもないように手を差し出す。でも私が持っている紙袋には水着と、何より下着が入っている。中身が見えることはないとはいえ、それを雲雀くんに預けるのは気が引けた。


「……いや、本当に、大丈夫」

「……ならいいけど」


 雲雀くんも、もしかしたらその気まずさに気付いたのかもしれない。ひょいと手は引っ込んだ。


「つか、牧落が買い物に付き合わせるから疲れたんだろ。マジでアイツいわゆる女の買い物みたいなの好きそうだから、適当に断れよ」

「いやそんな……牧落さんがいなかったら、蛍さんに海に沈められてたかもしれないし……」


 確かに下着を買いに行く羽目になるとは思わなかったし、そのせいで保存したものは増えてしまったけれど、水着を買いに行くというミッションを言いつけられ、そして牧落さんがいなければそれを満足に達成できていなかった可能性があるのは事実だ。


「というか本当に何の用事もなかったのに付き合わされたのは桜井くんと雲雀くんのほうだし……」

「あれはマジで蛍さんの命令が悪い。行くなら昴夜だけでいいだろ」

「本当に……私が牧落さんと二人だと気まずそうだからなんて理由で……」

「まあ実際気まずいよな。三国、別に牧落(アイツ)と仲良くねーし」

「仲良くない……まあ、仲良くはないよね」


 牧落さんもいないし、なんなら雲雀くんも牧落さんと仲が良いわけでもないし、となると口も軽くなる。


「あ、でももちろん仲が悪いわけじゃなくて……」

「いかにも女子な牧落と親友みたいになることねーって話だろ、分かってる。三国が仲良くなるのは池田が限界だよな」


 分かってると言われても、それはそれで私が牧落さんとのコミュニケーションを放棄するのをよしとされてしまって〝甘え〟を感じる。ただ口を挟む前に陽菜(はるな)の名前が出てきてしまったので、頭の中に自分なりの陽菜の分類項目を挙げた。弟がいる、ゆえに面倒見がいい、弟がいるせいもあってサバけた性格、男友達も多い、ただ長女らしい奔放(ほんぽう)さがあるのでその奔放さと衝突(しょうとつ)しないように注意……。牧落さんとの共通点は全く見当たらないし、陽菜の延長に牧落さんがいるかと言われても、それほどしっくりとは来ない。


「……牧落さんってどんな人なの」

「見てのとおり、女子」

「そんな乱暴な」


 ふふ、と頭が痛いのも忘れてつい笑ってしまった。雲雀くんは本当に牧落さんのことが苦手らしい。それなのに、蛍さんの命令があるとはいえ、私が気まずそうなんて理由で一緒に来てくれた雲雀くんはやっぱり優しい。

 ……やっぱり準・妹扱いなのかもしれない。脳裏には、雲雀くんの妹の話を聞いたとき――桜井くんに勉強を教えるなんて口実で、雲雀くんと三人で教室に残っていたときの写真が目に浮かんだ。

 ズキリと頭が痛んだ。……面倒な性質だ。

 私の腕が動いたのを視界の隅で敏感に捉えたらしく「……まだ頭痛いの」雲雀くんは視線ごと私に意識を向けた。


「……痛い、けど」

「けど?」


 特に続きがあるわけではなかった。平気だと言っても大丈夫だと言っても、雲雀くんにはお見通しだろうし……。


「……まあ、たまにあることなので……」