人混みは苦手だけど平気。建物の外観を見て回るのも、わりと平気。でも知らない土地では道を歩いて建物を見ているだけで無理なこともある。きっと、同じでないものをたくさん見ると危険。だからファッションビルは最悪。階が変わるごとに特徴だらけの店舗がたくさん並んでいるから。
それは私にもよく分かっていない事象なので、説明することはできなかった。でもまだ目を開けていられないほどではないので、エスカレーターの手すりに背中を預けながら「多分、外に出ればよくなると思う」と適当に誤魔化した。本当は目を閉じて寝てしまわないとどうにもならないのだけれど。
牧落さんは「そう……? ごめんね連れまわしちゃって」と眉を八の字にする。
「……大丈夫。ちょっと疲れやすいだけだから」
「疲れたんなら寄木公園じゃなくてカフェのほうがいんじゃね? ちゃんと座れるし」
「東屋みたいなのがあるだけでも大丈夫だよ」
なんなら、経験上は店内にいるより外にいるほうがいい。
外に出たからといって頭痛が引くわけではなかったけれど、ファッションビルの外に出ると、店内よりも少し喧噪が少なくなってほっと息を吐きだした。梅雨の少し湿った空気なんて、吸い込んでも気持ちがいいとはいえないけれど、視覚情報が店の中よりずっとマシだ。
「英凜、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「……昴夜、お前、牧落とカフェ行っといて」
おもむろに雲雀くんに腕を掴まれた。驚いて見上げたけれど、雲雀くんは桜井くんに視線を向けている。
「先に三国連れて行って休ませとく」
「いや、雲雀くん、本当に平気だから……」
「侑生がいいならいいよ、そのほうが英凜も休めるし」牧落さんはすぐに頷いてくれて「英凜の飲み物買ってくるね、なに飲みたい?」
喉は渇いていた。でもジュースだのコーヒーだの、余計なものが混ざっているものを飲みたい気分ではなかった。喉が欲しがっているのはただの水だ。
でもそんな文脈じゃない。仕方なく、スターボコーヒーのメニューのことを考える。その写真なんて頭の中にはなかった。あるのは情報としての記憶だけだ。
「……アイスティー?」
「そんなんでいいの? 分かった、買ってくるね」
「昴夜、俺の。アイスコーヒー」
「頼む態度! 英凜、マジで大丈夫?」
「大丈夫……」
本当に、ただ少し頭痛がするだけだ。心配そうな顔をされると申し訳なかった。
ただ、ファッションビル内で少し買い物をしていただけ。普通はそんなことで疲れない。例えば牧落さんはすごく楽しそうだったし、その意味で私よりずっとエネルギーを使っていたはずだけれど、まだまだエネルギッシュだ。省エネっぽく振る舞っていた私のほうが先にバッテリーが切れてるなんておかしい。
おかしいのに、バッテリーが切れてしまったものは仕方がない。心配そうに何度もこっちを振り向く桜井くんと、そんな桜井くんを引っ張る牧落さんとを見送った後、雲雀くんを見上げた。腕は掴まれたままだった。
「……雲雀くん、本当に大丈夫なんだけど……」
「ずっと頭押さえてるだろ。頭痛いんじゃねーの」
そんなに押さえてたかな……と内心首をひねりながら、今も自分が頭をおさえていることに気がついた。
「……頭は痛いけど」
「三国的にどうしたら楽なの、それ」
「……あんまり障害物がない景色だけ見とく、とか」
雲雀くんは首をひねった。それもそうだ。
「……寄木公園のベンチは?」
それは私にもよく分かっていない事象なので、説明することはできなかった。でもまだ目を開けていられないほどではないので、エスカレーターの手すりに背中を預けながら「多分、外に出ればよくなると思う」と適当に誤魔化した。本当は目を閉じて寝てしまわないとどうにもならないのだけれど。
牧落さんは「そう……? ごめんね連れまわしちゃって」と眉を八の字にする。
「……大丈夫。ちょっと疲れやすいだけだから」
「疲れたんなら寄木公園じゃなくてカフェのほうがいんじゃね? ちゃんと座れるし」
「東屋みたいなのがあるだけでも大丈夫だよ」
なんなら、経験上は店内にいるより外にいるほうがいい。
外に出たからといって頭痛が引くわけではなかったけれど、ファッションビルの外に出ると、店内よりも少し喧噪が少なくなってほっと息を吐きだした。梅雨の少し湿った空気なんて、吸い込んでも気持ちがいいとはいえないけれど、視覚情報が店の中よりずっとマシだ。
「英凜、本当に大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「……昴夜、お前、牧落とカフェ行っといて」
おもむろに雲雀くんに腕を掴まれた。驚いて見上げたけれど、雲雀くんは桜井くんに視線を向けている。
「先に三国連れて行って休ませとく」
「いや、雲雀くん、本当に平気だから……」
「侑生がいいならいいよ、そのほうが英凜も休めるし」牧落さんはすぐに頷いてくれて「英凜の飲み物買ってくるね、なに飲みたい?」
喉は渇いていた。でもジュースだのコーヒーだの、余計なものが混ざっているものを飲みたい気分ではなかった。喉が欲しがっているのはただの水だ。
でもそんな文脈じゃない。仕方なく、スターボコーヒーのメニューのことを考える。その写真なんて頭の中にはなかった。あるのは情報としての記憶だけだ。
「……アイスティー?」
「そんなんでいいの? 分かった、買ってくるね」
「昴夜、俺の。アイスコーヒー」
「頼む態度! 英凜、マジで大丈夫?」
「大丈夫……」
本当に、ただ少し頭痛がするだけだ。心配そうな顔をされると申し訳なかった。
ただ、ファッションビル内で少し買い物をしていただけ。普通はそんなことで疲れない。例えば牧落さんはすごく楽しそうだったし、その意味で私よりずっとエネルギーを使っていたはずだけれど、まだまだエネルギッシュだ。省エネっぽく振る舞っていた私のほうが先にバッテリーが切れてるなんておかしい。
おかしいのに、バッテリーが切れてしまったものは仕方がない。心配そうに何度もこっちを振り向く桜井くんと、そんな桜井くんを引っ張る牧落さんとを見送った後、雲雀くんを見上げた。腕は掴まれたままだった。
「……雲雀くん、本当に大丈夫なんだけど……」
「ずっと頭押さえてるだろ。頭痛いんじゃねーの」
そんなに押さえてたかな……と内心首をひねりながら、今も自分が頭をおさえていることに気がついた。
「……頭は痛いけど」
「三国的にどうしたら楽なの、それ」
「……あんまり障害物がない景色だけ見とく、とか」
雲雀くんは首をひねった。それもそうだ。
「……寄木公園のベンチは?」



