ぼくらは群青を探している

 雲雀くんの妙な方向からのツッコミで、頭の中ではふわふわと謎のイメージが湧く。女子高生がキャッキャと騒ぐ水着売り場で、マントを被って鎌を(たずさ)えた死神がコソコソと様子を(うかが)う……だいぶ間抜けだ。

 桜井くんがギャンギャンと一方的に雲雀くんに喚き散らす中、パンパンッと蛍さんがハリセンで机を叩いた。


「うるせーよ。もうどうでもいいからお前ら二人揃って行け」

「収拾のつけかたおかしくないですか!?」


 クールな雲雀くんも乱暴なまとめ方には声を荒らげずにはいられない。でも良い言い方をすれば蛍さんは女の子に優しいだけ……? ただそれが雲雀くんにとって迷惑なことには変わりない。


「蛍さん、牧落のこと甘やかしすぎですからね? コイツが勉強会に来てることから意味分かんねーのに俺と昴夜に牧落と一緒に水着買え? 嫌がらせじゃないですか」

「……そこまで言う?」


 牧落さんが(まゆ)(しり)を下げて露骨(ろこつ)に悲しそうな顔をした。雲雀くんは至極(しごく)真っ当なことを言ってると思うのだけれど、牧落さんが傷ついたというのなら仕方ない、そういうものだ。

 蛍さんもそれを懸念(けねん)していたのだろう、ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜて雲雀くんの前に膝を立てて座り込む。


「仕方ねーだろ、牧落サンが言うんだから。桜井の幼馴染みたってお前も昔から知ってんだろ?」

「で?」

「で、じゃねーよ、先輩を敬え。確かに牧落サンが言ってんのはただの我儘(わがまま)だけどな」


 後半から蛍さんは声を潜めた。牧落さんには聞こえてないだろう。


「お前だって三国に水着を買わせる必要は分かってんだろ」

「分かってません。アンタが三国の水着見たかろうが見たくまいが俺には関係ないです」

「お前は三国がスク水で海に来て責任取れんのか」

「取りたくねーよそんな責任!」

「いやいや雲雀くん、落ち着いて? さすがに海に全く入らないわけないでしょ? で、それなのに完全にティシャツ短パンだけで来るはずないでしょ? ってことは下はスク水なんだよ」

「で!?」

「で、じゃないでしょ、先輩を敬って。いいの、三国ちゃんがスク水で海に行って」

「だから知らねーよ!」


 能勢さんまで加わり、なにやら三人でゴチャゴチャと喋った後、蛍さんが「ま、そういうことだ」と雲雀くんの肩を叩いた。


「三国も牧落サンと二人は困るだろ。生贄(いけにえ)だお前は」

「すなわち死じゃないですか」

「……そもそも私は水着が要らな――」

「テメェは水着を買え!!」

「イッ……!」


 コソッと口を出したら怒鳴られたしハリセンでぶん殴られた。思わず頭を押さえてしまうほどの強打だった。


「ティシャツと短パンの何がそんなに悪……!」

「三国、いいか、世の中勉強以外に大事なことなんていくらでもあるんだぞ」


 呆然と蛍さんを見上げるも、その目つきの鋭さには私でさえ察知してしまうほど、有無を言わせぬ怖さがあった。


「スク水しか持ってません、だから海はシャツと短パンですなんて言わせねぇ。水着には男のロマンが詰まってんだよ」


 なんかそれで私が怒られるの違うくないですか? そう言いたいのはやまやまだったけれど、後ろの能勢さんと九十三先輩が、なんなら桜井くんまで深々と頷いているので私が間違っているのかもしれない。


「……はい……すみません……」