いや私に釣られるなんて誰一人思ってないから……。本当に桜井くんの返事はいつも斜め上だ。
「じゃー俺が一緒に行こうか? 胡桃ちゃんと三国ちゃんの水着選び」
さすがの私でも、その九十三先輩の声は語尾にハートマークでもついていそうなほど浮ついている (下心が見えている?)のが分かった。途端に桜井くんがハッと振り向く。番犬の嗅覚が反応したのだろう。
「それは……何かよろしくないニオイがする! やっぱり俺が行くべき?」
「いや牧落サンと三国が二人で行きゃいーだろ」
桜井くんの言葉尻に蛍さんの冷静な意見が被さった。でも一度ピンときた桜井くんはそのまま斜めに突っ走る癖がある。
「いや、侑生も一緒に行けばいいんだなって」
「は?」
……斜めに突っ走る癖が、ある。その結果、雲雀くんに衝突して巻き込み事故を起こす。
ただ、意外だったのは雲雀くんも話自体は聞いていたことだ。きっとそこにいても聞こえていないくらいには興味を払っていないものだと思っていたのに。
「俺を巻き込むんじゃねーよ、行きたいなら一人で行け」
「いや行きたくねーよ! でもツクミン先輩と胡桃と英凜って意味分かんないじゃん」
別にそこが桜井くんであったとしても、水着を買うという目的がある時点で意味は分からない。
「ていうかあたしはパティプリの埋め合わせをしてほしいって言ってるんじゃん」
〝パティプリ〟という字が一瞬脳内で変換できなかった。でもきっとパティスリー・プリティの略だ。
「だからぁ、埋め合わせも何も俺が断っただけじゃん! それ俺が埋め合わせる必要あんの!?」
話が進まない。私としては桜井くんが言っていることのほうが筋は通ってるし合理的だと思うけれど、桜井くんが買い物に行かないとすれば私と牧落さんが二人で行くことになる。ここで牧落さんの肩を持たないにも関わらず買い物は二人きり、なんて微妙な事態は避けたい。
「じゃあパティプリ行ってくれなかったことはいいよ。この間一緒に帰ろうって言ったのにすっぽかしたのは?」
「勉強会の後に一緒に帰ったじゃん!」
「四時に帰るのと六時に帰るのとじゃ全然ちがいますーう」
牧落さんが譲る気配はないので、桜井くんが折れるしか収拾をつける方法はないのでは……とそっと蛍さんの様子を窺うと、まるで頭痛でもしているかのようにこめかみを押さえて目を瞑っていた。
「……桜井、うるせーから行ってやれ」
「なんで!?」
どこか諦めたような疲れた声に、桜井くんは丸い目と口を大きく開いた。懐いてる蛍さんに言われては断りようがないに違いない。
「だって牧落サンは行きてーんだろ。女子の頼みは聞いとけ」
「自分は聞かないからフラれたくせに!」
「フラれてねぇつってんだろ!」
「ほらー、蛍先輩もそう言ってることだし。あ、侑生も来ていいよ」
「昴夜一人で行って」
「無理無理! お願い侑生、一生のお願い! 水着売り場に一人で行かされるとかマジで無理!!」
まるで縋り付くように、というか現に雲雀くんのシャツを掴んで縋り付きながら桜井くんは喚く。そんなにイヤがるなら助け舟でも……とは思うけれど、やはり牧落さんの前でそんなことは言えない。
「知らねーよ、お前が牧落とした約束が問題なんだろ。俺関係なくね」
「俺達西の死二神なんて呼ばれた仲じゃん!」
「関係ねーだろ、大体字面考えてみろ。死神が水着売り場行ってどーすんだ」
「じゃー俺が一緒に行こうか? 胡桃ちゃんと三国ちゃんの水着選び」
さすがの私でも、その九十三先輩の声は語尾にハートマークでもついていそうなほど浮ついている (下心が見えている?)のが分かった。途端に桜井くんがハッと振り向く。番犬の嗅覚が反応したのだろう。
「それは……何かよろしくないニオイがする! やっぱり俺が行くべき?」
「いや牧落サンと三国が二人で行きゃいーだろ」
桜井くんの言葉尻に蛍さんの冷静な意見が被さった。でも一度ピンときた桜井くんはそのまま斜めに突っ走る癖がある。
「いや、侑生も一緒に行けばいいんだなって」
「は?」
……斜めに突っ走る癖が、ある。その結果、雲雀くんに衝突して巻き込み事故を起こす。
ただ、意外だったのは雲雀くんも話自体は聞いていたことだ。きっとそこにいても聞こえていないくらいには興味を払っていないものだと思っていたのに。
「俺を巻き込むんじゃねーよ、行きたいなら一人で行け」
「いや行きたくねーよ! でもツクミン先輩と胡桃と英凜って意味分かんないじゃん」
別にそこが桜井くんであったとしても、水着を買うという目的がある時点で意味は分からない。
「ていうかあたしはパティプリの埋め合わせをしてほしいって言ってるんじゃん」
〝パティプリ〟という字が一瞬脳内で変換できなかった。でもきっとパティスリー・プリティの略だ。
「だからぁ、埋め合わせも何も俺が断っただけじゃん! それ俺が埋め合わせる必要あんの!?」
話が進まない。私としては桜井くんが言っていることのほうが筋は通ってるし合理的だと思うけれど、桜井くんが買い物に行かないとすれば私と牧落さんが二人で行くことになる。ここで牧落さんの肩を持たないにも関わらず買い物は二人きり、なんて微妙な事態は避けたい。
「じゃあパティプリ行ってくれなかったことはいいよ。この間一緒に帰ろうって言ったのにすっぽかしたのは?」
「勉強会の後に一緒に帰ったじゃん!」
「四時に帰るのと六時に帰るのとじゃ全然ちがいますーう」
牧落さんが譲る気配はないので、桜井くんが折れるしか収拾をつける方法はないのでは……とそっと蛍さんの様子を窺うと、まるで頭痛でもしているかのようにこめかみを押さえて目を瞑っていた。
「……桜井、うるせーから行ってやれ」
「なんで!?」
どこか諦めたような疲れた声に、桜井くんは丸い目と口を大きく開いた。懐いてる蛍さんに言われては断りようがないに違いない。
「だって牧落サンは行きてーんだろ。女子の頼みは聞いとけ」
「自分は聞かないからフラれたくせに!」
「フラれてねぇつってんだろ!」
「ほらー、蛍先輩もそう言ってることだし。あ、侑生も来ていいよ」
「昴夜一人で行って」
「無理無理! お願い侑生、一生のお願い! 水着売り場に一人で行かされるとかマジで無理!!」
まるで縋り付くように、というか現に雲雀くんのシャツを掴んで縋り付きながら桜井くんは喚く。そんなにイヤがるなら助け舟でも……とは思うけれど、やはり牧落さんの前でそんなことは言えない。
「知らねーよ、お前が牧落とした約束が問題なんだろ。俺関係なくね」
「俺達西の死二神なんて呼ばれた仲じゃん!」
「関係ねーだろ、大体字面考えてみろ。死神が水着売り場行ってどーすんだ」



