ぼくらは群青を探している

「だからァ、積み重ねだつってんだろ! つかフラれてねえよ!」

「でもどっちも潮時(しおどき)みたいな感じだったんでしょ? 彼女のお願いを聞いてあげないからそうなるんですよ」能勢さんはニマニマなんて聞こえてきそうなちょっと悪戯(いたずら)っぽい笑みを浮かべて「なに言っても聞いてくれないし、プリティに行かなかったのがトドメみたいな」


 ……意外だ。蛍さんは妹さんもいるらしいし、口は悪いけど面倒見もいいし、なんやかんや彼女の我儘に付き合ってくれそうなのに。


「あのなあ、別に俺だって何も聞かなかったわけじゃないだろ」


 この話題に観念したのか、蛍さんはそのまま教卓の上に座り来んだ。この人、いつも教卓の上に座っているけど、高いところが好きなのだろうか。


「デート行きたいって言われりゃ行ったし、バレンタインだってちゃんと受け取ったし……」

「永人さん、二つめのって人として普通じゃね?」

「俺は口の中が甘ったるくなるもん好きじゃねーんだよ」


 そう言われると、いかにも甘ったるいお菓子を出しそうな〝パティスリー・プリティ〟なんて蛍さんにとっては地獄か拷問(ごうもん)だったのかもしれない。でもそれは彼女さん (元カノさん?)との相性が悪いとしか言いようがない。


「元カノさん、隣のクラスでしたっけ? 話したりするんです?」

「しねーよ。向こうが話しかけてこねーのになんで俺が話しかけるんだ」

「向こうは話しかけたそーにしてるけどね。プライドが許さないんだろうなー、|永人(元カレ)に話しかけるの」

「ああ、なんだかありそうな話ですね。未練とかないんですか?」

「ねーよ。なんでフッた側に未練があんだよ」

「え、それなんて言ってフッたの? ですか?」

「とってつけたように敬語遣ってんじゃねーぞ桜井。普通だよ、普通。自分がカノジョと別れるとき考えてみな」

「俺、元カノ自然消滅だもん」


 ……桜井くん、彼女いたことあるんだ。蛍さんから散々女心指導をされていたから、てっきりいたことがなくて扱いが分からないのだと思っていた。でも逆か、扱いが分からなかったから関係が終わっただけで、付き合った相手は確かにいた、と言われても理屈は通る。

 とはいえ、思わぬ情報であることには変わりない。思わず桜井くんを凝視してしまったけれど「侑生(ゆうき)は?」と桜井くんは私の視線に気付かない。


「付き合ったことない」

「遊び人のセリフだねえ」


 雲雀くんは肩を(すく)めた。雲雀くんのほうが彼女がいたことあると言われて納得ができるのに……。二人の意外な一面を知ってしまった。


「そういう能勢さんはどうなんですか」

「俺は付き合おうを言わないから別れようも言わないでいい」

「そっちのほうがよっぽど遊び人でしょ」


 それにしても、どうして群青の人達はいつもこうして脱線するのだろう。しかもみんな結構、いわゆる恋バナが好きらしい。


「胡桃ちゃんは? 彼氏は?」

「いないでーす。いたらこんなとこ来てないです」

「こんなとこって言うんじゃねーよ、自分で来たんだろ」


 きっと牧落さんが男だったら叩かれてる。なんなら蛍さんは牧落さんの代わりのように机を叩いていた。


「ね、だから英凜、水着買いに行こ。ね!」

「……でも桜井くんは行きたくないわけで」

「大丈夫大丈夫、なんやかんや言って来てくれるでしょ?」

「行かねーよ! 俺が英凜につられると思ったら大間違いだぞ!」