ぼくらは群青を探している

 遂に蛍さんがやってきて、九十三(つくみ)先輩の頭が勢いよく叩かれた。九十三先輩は「教えてもらったぶんが出て行くっての」とブツブツ文句を言いながらも従順に教科書を開いた。

 ただその集中力が続くはずもなく、二十分も経てば「ねー胡桃ちゃーん」と九十三先輩は頭をのけぞらせて牧落さんにちょっかいをかけ始めた。


「もうプール始まった? いつあんの? てか夏休み海行こ」

「九十三先輩、流れるように下心出してんな」

「海だけに? ……なんちって」


 桜井くんのジョークは雲雀くんの絶対零度の目に黙殺された。私はちょっと笑ってしまった。


「プール、始まりましたよ。明日ありますけど……」

「マジ? 何時間目」

「気持ち悪い質問してんじゃねーよ九十三(つくみ)

「イッテ!」


 バァンッと九十三先輩の横っ面が叩かれた。確かに、プールの授業がいつあるのか聞くと、かなり具体的な下心を感じる。当人からすれば気持ち悪いことかもしれない。

 ただ、ハリセンを持つ蛍さんを前に、牧落さんは「大丈夫ですよ、気にしないですから」と苦笑いだ。


「ていうか海は行きたいので連れてってください」

「待て待て待て。なに抜け駆けしてんだよ!」


 一人の先輩が九十三先輩の肩を組めば「え、もちろん(ブルー)(・フロック)のみなさんに連れて行ってほしいってことですよ? 二人じゃ行かないですよ」牧落さんがさりげなくデートを否定した。蛍さんは「すげーな、可愛いと百戦(ひゃくせん)錬磨(れんま)かよ」と小さく呟く。九十三先輩は「まーじかぁ。昴夜の上にはなれねーよなそりゃ」と椅子の後ろに頭を投げ出した。


「あ、だから海連れて行ってほしいのは本当ですよ。ほらナンパとか邪魔だし、先輩達いてくれたら楽チンかなって」

「俺の(ブルー)(・フロック)を男|除()けに使うんじゃねーよ」蛍さんはぼやくけれど「全然除ける! 胡桃ちゃんに近づく虫は全部火炎放射で燃やせる!」他の先輩たちは満更(まんざら)でもなさそうだ。


「マジこのむさ苦しい男の(その)に胡桃ちゃんいるの最高だよな……桜井グッジョブ」

「アイツが幼馴染みじゃなきゃなあ……でも幼馴染みだからいるんだよな……くそぉ……」

「やっぱ狙い目は三国ちゃんか」

「でも三国ちゃんに手出したら雲雀と永人に殺されるよな」

「マジそれ」


 ……まただ。やっぱり、(ブルー)(・フロック)の人達にとっては――少し自意識過剰な表現かもしれないけれど――蛍さんが私を守るのが当然であるかのような認識になっている。

 妹と重ねている――能勢さんの指摘をもう一度考える。妹がいるというのは、いまパラレルにされた蛍さんと雲雀くんの共通項でもある。もし私が〝妹っぽい〟というのであれば、そして妹がいる人にとってついつい〝妹っぽい〟人を心配しがちだというのなら、分からなくはない。雲雀くんは妹が危険な目に遭ったというし、蛍さんも何年も会ってないということは……。


「ってわけで、三国ちゃんもどーお?」

「英凜も行くよね!」

「え?」


 九十三先輩と牧落さんに名前を呼ばれて我に返る。全く聞いていなかった。


「な……なにを……?」

「夏休み、海行こーって」

「……はあ、海なら行きます、が……」

「よっし! 永人、今の聞いたな? 三国ちゃんが自分で行くって言ったから! 俺らなーんも悪いことしてないからな!」