「要約すると偶然による一回の出来事なので関係性を裏付ける事実にはなりません」
「なんっも分からん! やっぱ俺インテリちゃんキライ! でも雲雀くんより三国ちゃんが好き、英語教えて」
「いいですけど、この間の小テストはどうだったんですか?」
「やだ厳しい」
これ以上桜井くんとの関係を話していると美人局の件で口を滑らせてしまうかもしれないし、さっさと英語組に移動しよう……。他の先輩達にあれやこれやと絡まれている桜井くんを取り残してそっと雲雀くんの隣に座る。雲雀くんは椅子の上に胡坐をかき、辞書を載せていた。見た目は誰よりもヤンキーなのに、その姿勢は誰よりも優等生だ。ちょっと恰好は不真面目だけれど。
「いま何してたの? 文法?」
「と、単語。先輩らマジで欠片も単語分かんねーから」
「先輩に生意気言ってんじゃねーよコイツ!」
「小テストで七点以上取ってから言ってくれます?」
「てか単語ってどうやって覚えるの?」
九十三先輩は私の隣に座り、机の上の単語帳をぱらぱらと捲る。
「こんなんただの記号じゃん?」
「よく言うのは書くとか声に出すとかではないでしょうか」
「あー、デシデって?」
謎の呪文が聞こえた。一体何だと思って九十三先輩の手元を覗きこめば、単語帳には"decide"と書かれている。デシデ……読めなくはない。
「……そういう覚え方をすると発音が分からなくなりません?」
「あー、そう、だから読めない。音読とか最悪の授業だね。三国ちゃんはどうやって覚えてんの」
〝よく言う〟というのは必ずしも自分でも取り入れている方法とは限らない。九十三先輩は意外と耳聡いらしい。
「……どうって言われても」
「あー、それあたしも知りたい!」
牧落さんが英語組に混ざってしまった。もうだめだ。そっと蛍さんの様子をうかがうと、上段からこちらを見てパンパンとハリセンを動かしている。いつ叩かれてもおかしくない。慌てて単語帳に視線を戻した。
「……いやえっと」
「だって模試満点だったでしょ? すごくない?」
ちらりと蛍さんが座っているところに視線を向ける。立ち上がる気配はない。大丈夫……だろうか?
「どうやって覚えるの?」
「……長文で見たときに、そのまま覚えてる、とか」
「そのままって?」
「……そのまま」
それ以上なにも言えなくて口籠っていると、パタンと隣の雲雀くんが辞書を閉じた。
「別に、わざわざ覚えようとしなくても頭入るって話だろ。先輩ら頭の出来違うんで諦めて地道に覚えてください」
「この顔だけ先生ムカつくなオイ!」
ほ……と雲雀くんの隣で安堵の息を吐く。もしかしたら雲雀くんは私が言い淀んだことに気付いたのかもしれない。
「頭の出来かー。そりゃそうだよな、三国ちゃんぱっぱと解いちゃうんだもんな」そして九十三先輩は何も気づいた様子はなく「最初に三国ちゃんに教えてもら他ヤツあるじゃん? あれセンターで出てたんだって。俺ちょうど当てられたから三国ちゃんの回答丸パクして褒められた」
「情けなくないんですか?」
「だからムカつくなあコイツ!」
「うるせーぞ九十三、勉強しろ」



