ぼくらは群青を探している

 よろしくされるのは私ではない……と考えてしまったせいで首を捻ったけれど「よろしくねー、胡桃ちゃん!」と当の先輩達は嬉しそうなのでよしとする。ただ。桜井くんはどこか困ったような顔をして私を見た。何に困っているのか分からなかったけれど……合理的に考えて、先輩達のいうとおり、ここに私と桜井くんと牧落さんが揃っている意味はないから、きっとそのことだろう。


「……じゃあ私は英語に移りますかね……」


 牧落さんも桜井くんの隣から離れるのは不安だろうし、と立ち上がった。途端に「ちょっと待ってそういうのナシじゃない!?」と先輩が叫ぶけれど「いーよいーよ三国ちゃんこっちおいで!」九十三(つくみ)先輩がすかさず手招きして「雲雀くん怖いから! マジ綴りミスっただけで『なんだこのバカ』って目で見てくるから!」

「え、でも俺数学は教えらんないんだけど?」


 桜井くんが困った顔のまま自分を指さす。さっきの困り顔を読み間違えてしまったのか、それとも桜井くんは何も考えていなかったのか。ただ、桜井くんはもともと番犬しかしていないので問題はない。それに、誰がどう見たって番犬が必要なのは私よりも牧落さんだ。


「……牧落さんの番犬してあげたほうがいいんじゃ」

「ていうか、あたしのこと胡桃でいいって言ってるのに」


 いそいそと自分の荷物を片付けていると牧落さんは桜井くんの隣で両肘を膝につき、手の中で頬を膨らませる。たったそれだけの仕草でも可愛いのだから、本当に牧落さんはどの場面でどの角度から見ても美少女だ。


「……えっと」

「てか俺のこと昴夜(こうや)って呼ぶのが先じゃね?」


 桜井くんが口を挟む場面ではないのだけれど、それはそうかもしれない。友情の期間と深度に相関関係があるとは思わないけれど、少なくとも私と牧落さんの関係に桜井くんほどの時間も密度もない。


「……それは追々(おいおい)」

「オイオイっていつ?」

「……追々は追々」

「昴夜がこんなに言ってるんだから呼んであげてもいいじゃん、なあ?」


 まさしく桜井くんのことを名前で呼ぶようになった九十三(つくみ)先輩は、数学組のところへやってきて桜井くんの肩を持つ。雲雀くんの目はその顔を(にら)んでいるので「真面目にやれ」とでも言いたいのだと思う。確かに勉強会中一番うるさいのは九十三先輩だ。


「……呼び方って、関係性が出るじゃないですか」

「よくない? 俺と英凜(えり)の仲じゃん?」

「なになに、それどういう仲?」


 観察していると、雲雀くんの視線が素早く動いた。きっと美人局(つつもたせ)の件を下手に口外されては困ると危惧(きぐ)したのだろう。そしてそこはやはり相棒の以心伝心なのか、桜井くんの口は開いたまま(しばら)く止まる。


「……手料理食う仲!」

「はあ!?」


 ただ、それはそれで(やぶ)(へび)だった。しかも九十三(つくみ)先輩が大きな声を出したせいでみんながみんな振り向く。


「お前胡桃ちゃんにも晩飯貰ってんだろ? でもって三国ちゃんの手料理ってなんだそれ!」

「いやだから俺と英凜はそういう仲で……」

「大学生のカップルじゃねーんだぞ!」

「九十三先輩、いまの桜井くんの言い方は語弊(ごへい)があります。桜井くんがたまたま助けたお年寄りが私の祖母だったのでうちに来たことがあり、祖母がお礼もそこそこに出かけてしまったのでお昼時ということもあって食事を作っただけで」

「分かりにくいわ! なんだいまの説明! ロボットかよ!」