ぼくらは群青を探している

 能勢さんが視聴覚教室の扉を開けると、むわっと湿気に襲われる。こうして鍵をかけられているせいで空気が入れ替わらないせいだろう。思わず、能勢さんと(そろ)って手を団扇(うちわ)にしてパタパタと自分を仰いだ。


「キッツ……ただでさえ勉強なんてしない人達なのに……」

「……蛍さん達が来るまでに窓を開けましょう」


 互いに教室の端と端に散って手当り次第窓を開ける。でも外も雨だし、梅雨独特の湿気はどこにも逃げようがない。

 機械に頼るしかない、とエアコンのスイッチを探して周囲を見回していると、能勢さんがいち早くスイッチを押した。ゴッ、とエアコンの起動音がするだけで室内が涼しくなるような気がしてくる。


「あー、暑い暑い。やだね、この季節は」

「……能勢さんはこんな季節なのにいつも爽やかですよね」

「女の子はみんな爽やかな男が好きでしょ?」

「だからって爽やかに振る舞えるかは別問題じゃないですか」

「女の子はみんな爽やかな男が好きだからそう振る舞ってるって話だよ」


 それはまるで、本当を隠して嘘で自分を塗り潰すことのように思えた。

 能勢さんは女の子に夢を売っていると言った。その夢は、例えば女の子にとって理想的な男になることなのだろうか。

 そんなことをして好かれて嬉しいんですか、なんて月並みな質問が浮かんだので、プツリと針を刺して(はじ)けさせる。私だって、同じだ。


「……そうですね」


 嘆息(たんそく)すると、廊下からガヤガヤと話し声が聞こえ始めて「あー、クソ暑いな」と言いながら蛍さんが顔を出した。その背後から次々と群青のメンバーが入ってくる。その中には牧落さんもいた。


「いまドライつけましたよ」

「有能。窓閉めたほうがいんじゃね、降り込むだろ」


 窓辺に歩み寄ってきた蛍さんはしかめっ面で窓の外に顔を出して天気の様子を(うかが)う。その少し離れたところで能勢さんは「そんなに強くないから大丈夫ですよ」と微笑(ほほえ)んだ。


「なんだ三国、俺の顔に何かついてるか?」


 いつの間にか、蛍さんの横顔を見てしまっていたらしい。怪訝(けげん)な顔が振り向くので「いえ……」小さく返事をして顔を背けた。

 何年も会ってない妹と重ねてる……? それにしたって、なにか引っ掛かる。ただ何に引っ掛かっているのか、考えても上手く頭が回らなかった。


「さーてと、ヤマセンに勉強するつったし、始めっか」蛍さんはまたハリセンを取り出して「ほーら六組にいたときと同じように散れ」

「蛍せんぱーい、あたしはー?」


 ここから合流する牧落さんが手を挙げれば、蛍さんが返事をする前に「数学! 数学!」「いや数学三国ちゃんいんじゃん、英語だろ」「いや英語は俺がいるので要らないです」「オメーは女なのは顔だけだイッテ! お前先輩を踏むんじゃねーよ!」と先輩達が我のところへと手を挙げた。でも蛍さんは無視だ。


「……牧落サン、成績いんだろ。得意科目教えてやれ」

「んー、じゃあ数学?」

「数学に胡桃ちゃんも三国ちゃんもいるのはおかしいだろ!」


 先輩達からの抗議をやはり蛍さんは無視して「ん、じゃあ牧落サンそっち」と牧落さんを追いやった。既に数学組の中に座っていた私と桜井くんのその隣に牧落さんは座り込む。


「よろしくね、英凜」

「……よろしく?」