ぼくらは群青を探している

 雲雀くんはともかくとして、頭に保存されてしまった桜井くんの写真はまるで人懐こい子犬のようなものばかりだ。いや、確かに入学式初日はとんだトラブルメーカーと同じクラスになってしまったと衝撃を受けたけれど、やられたらやり返すだけで、あの二人が災禍(さいか)を振りまくわけではない。

 ああ、でも、美人局(つつもたせ)のときとか、桜井くんと雲雀くんの脅迫は妙に手慣れてたな……。あれは力で優位に立っているという圧倒的な自信があるからこそできたことなのだと言われると、それはそれで納得もする。


「そのうち分かると思うよ。多分、いまはどこのチームも様子見段階。特に四月からトップが替わったようなところは、他チームに手を出すほど内側が盤石(ばんじゃく)じゃないんだよ。梅雨が明ける頃には、ちょっと様子が変わってるかもね」


 梅雨が明ける頃――本格的な夏がやってくる頃。それは同時に夏休みに入ることを意味する。学校という(くびき)がなくなってしまうという……。

 とはいえ、群青の人達は真面目に学校に来ているけれど、新庄みたいな(ディープ)(・スカーレット)の人達とかはどうなんだろう……。学校生活が(くびき)になるなんて、それこそ私みたいな人間の(かたよ)った評価なのだろうか。


「ま、でも三国ちゃんは心配することはないよ。三国ちゃんに手を出すと永人さんと(ブルー・)(フロック)が出てくる。新庄に限らず、それはかなり面倒だから、ね」


 ……それは、聞けば聞くほど、蛍さんへの疑念しか(つの)らない話だった。


「……なんで私は群青なんでしょう」

「ああ、それね。俺も気になってたけど、多分妹とだぶってるんじゃない?」

「妹?」


 最初に雲雀くんが口にしたのはお姉さんだったけれど、あれはやはり勘違いかただの噂が変形した結果だったのだろうか。少なくとも蛍さんに近い能勢さんの言うことのほうが信憑性(しんぴょうせい)は高い。


「蛍さん、妹いるらしいんだよね。確か三国ちゃんと同じくらいじゃないかなぁ、随分前に聞いたから忘れてた」

「……それと、重ねるとは……?」


 それこそ亡くなるとか、目の前にいない人間だからこそ〝重ねる〟という事象は発生するものだ。聞いてはいけないのかもしれないと思いつつ、ついつい首を突っ込まずにはいられない。


「何年も会ってないって言ってたからさ。それじゃないかな」

「……それは」


 亡くなったことの婉曲(えんきょく)表現とか……と口に出そうとして能勢さんのお姉さんのことも分かっていないことに気が付いた。軽率に口に出してはいけない。

 ただ、能勢さんは気にした様子はなく「さあ、三年なら知ってるひともいるんだろうけど、どうなんだろうね」と首を傾げただけだった。ちょうど視聴覚教室の前に着いたということもあって、能勢さんはくるくると指で鍵を回して遊んでいたのをやめる。


「でもほら、三国ちゃん、体弱いんでしょ? ここ最近群青に混ざってるの見てると妹感もあるし、本当の妹みたいに心配になるものなんじゃない?」


 そんなものだろうか……。能勢さんが鍵を差し込む横で首を(ひね)る。弟も妹もいない私には分からない話だ。


「……能勢さんにも妹さんがいらっしゃるんですか?」

「いや、俺はいないよ」


 ……その返答に、ほんの少し、自分の心に(かげ)りが差すのを感じた。