緊張で再び喉が鳴る。これで最後だ。
「この動画とこの録音、これを私達が警察に持って行けばおしまいです。分かったら、二度と群青に手を出さないでください」
ポツ……ポツ……と水滴が断続的に落ちる音が聞こえている。部屋の中の誰も口を開かなかった。今津の指には力が籠り、煙草を指の間で潰しそうになっていた。園田さんは爪を噛んでいた。
そっと雲雀くんを見ると、顎で出口のほうを示された。もう充分だから帰っていい、という意味だろう。
雲雀くんが先に立ち上がり、それに続いて立ち上がった瞬間「待ちな」……今津の声に止められた。振り返ると、今津は机の上の灰皿でぎゅっと煙草を揉み潰しているところだった。
「……つまり今の話を整理すると、こういうことか」
今津が重々しく告げる横で、園田さんは巻き込まれまいとでもするようにそっとソファを立ち、部室の隅に移動する。
「いまここで、その録音ぶっ壊して、ついでにお前らが何も言えないようにすればいいんだろ?」
……やっぱりそう来た。蛍さんと能勢さんに言われたとおりだとしても、いざ脅されると怖くないわけがない。背後はソファで後ずさることもできない。辛うじて隣の雲雀くんのスカートを掴んで心を落ち着けた。
「……外には蛍さんがいますよ」
「隣の部室に控えてっから大丈夫だよ」
……蛍さん達に部室棟の階段さえ上らせなかったのはそういうわけか。さすがの蛍さん達も部室棟に上ることさえできなければ来るまでに時間がかかる。
「とりあえず、大人しくそれは渡しな」
手の中にある録音機をぎゅっと握り締め、そっと雲雀くんを見上げた。雲雀くんの目は、ややあって――私を睨むように見返した。
……普段の雲雀くんを知っていると、分かる。これは、怒りのあまり、私に向ける視線を切り替える余裕さえなくなっている顔だ。
「……それ持ってな、三国」
「え?」
小さく頓狂な声を上げたのは私ではなく、男の声に驚いた白雪のメンバー達だった。
そこから先の雲雀くんは素早かった。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、その衝撃で身動きができない一瞬の隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、怯んだ隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机の上の灰皿を掴んだかと思うと部屋の隅に向かって放り投げ、投げられた先にいた一人がゲッだかなんだか声を上げて怯んでいる隙に別の一人の胸座を掴んでもう一人に叩きつけるように投げ、灰皿で怯んでいた一人を殴打。
計四人がものの十秒で戦闘不能になるさまを見せつけられ、私はポカンと間抜けに口を開けて立ち尽くした。ただ当の本人は苛立ちが収まらないらしく、ソファから叩き落した今津の胸をスニーカーで踏みつけた。うえ、と今津が小さく呻く。
「キーキー喚いてねぇで謝れつってんだよ。お前自分の立場分かってんのか?」
完全に立場が逆転した。録音機を握り締める私の前では、やたら綺麗で背の高い美女が低い男の声で今津を脅している。
「お前らを年少にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ。録音消せばいいだの俺ら脅せばいいだの、この期に及んでセコイこと考えようとすんじゃねえ。お前らが選べる立場にねーんだよ」
「この動画とこの録音、これを私達が警察に持って行けばおしまいです。分かったら、二度と群青に手を出さないでください」
ポツ……ポツ……と水滴が断続的に落ちる音が聞こえている。部屋の中の誰も口を開かなかった。今津の指には力が籠り、煙草を指の間で潰しそうになっていた。園田さんは爪を噛んでいた。
そっと雲雀くんを見ると、顎で出口のほうを示された。もう充分だから帰っていい、という意味だろう。
雲雀くんが先に立ち上がり、それに続いて立ち上がった瞬間「待ちな」……今津の声に止められた。振り返ると、今津は机の上の灰皿でぎゅっと煙草を揉み潰しているところだった。
「……つまり今の話を整理すると、こういうことか」
今津が重々しく告げる横で、園田さんは巻き込まれまいとでもするようにそっとソファを立ち、部室の隅に移動する。
「いまここで、その録音ぶっ壊して、ついでにお前らが何も言えないようにすればいいんだろ?」
……やっぱりそう来た。蛍さんと能勢さんに言われたとおりだとしても、いざ脅されると怖くないわけがない。背後はソファで後ずさることもできない。辛うじて隣の雲雀くんのスカートを掴んで心を落ち着けた。
「……外には蛍さんがいますよ」
「隣の部室に控えてっから大丈夫だよ」
……蛍さん達に部室棟の階段さえ上らせなかったのはそういうわけか。さすがの蛍さん達も部室棟に上ることさえできなければ来るまでに時間がかかる。
「とりあえず、大人しくそれは渡しな」
手の中にある録音機をぎゅっと握り締め、そっと雲雀くんを見上げた。雲雀くんの目は、ややあって――私を睨むように見返した。
……普段の雲雀くんを知っていると、分かる。これは、怒りのあまり、私に向ける視線を切り替える余裕さえなくなっている顔だ。
「……それ持ってな、三国」
「え?」
小さく頓狂な声を上げたのは私ではなく、男の声に驚いた白雪のメンバー達だった。
そこから先の雲雀くんは素早かった。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、その衝撃で身動きができない一瞬の隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机を蹴っ飛ばして今津の膝下に打撃を加え、怯んだ隙に回し蹴りでソファから叩き落す。机の上の灰皿を掴んだかと思うと部屋の隅に向かって放り投げ、投げられた先にいた一人がゲッだかなんだか声を上げて怯んでいる隙に別の一人の胸座を掴んでもう一人に叩きつけるように投げ、灰皿で怯んでいた一人を殴打。
計四人がものの十秒で戦闘不能になるさまを見せつけられ、私はポカンと間抜けに口を開けて立ち尽くした。ただ当の本人は苛立ちが収まらないらしく、ソファから叩き落した今津の胸をスニーカーで踏みつけた。うえ、と今津が小さく呻く。
「キーキー喚いてねぇで謝れつってんだよ。お前自分の立場分かってんのか?」
完全に立場が逆転した。録音機を握り締める私の前では、やたら綺麗で背の高い美女が低い男の声で今津を脅している。
「お前らを年少にぶちこめるところをこっちは黙っといてやるって言ってんだぞ。録音消せばいいだの俺ら脅せばいいだの、この期に及んでセコイこと考えようとすんじゃねえ。お前らが選べる立場にねーんだよ」



