ぼくらは群青を探している

 執拗な念押しに、今津が大声で怒鳴った。ドクリとまた心臓が大きく鳴る。


「この動画、ちゃんと見ました?」


 ゴクリと緊張で喉が鳴る。カチリと動画を再生した。

 小さな画面の中でガチャ、バタンと音がした。その瞬間に動画を止める。

 冒頭たった二秒かそこら。今津も園田さんも揃って眉を顰めた。


「……それが?」

「……これ、部屋の扉が開いて閉まる音です」


 パチンと、携帯電話を閉じた。


「部屋に入った後にセットしたんだったら、そんな音は入らないんです」


 バラバラと絶えず聞こえていた、古い屋根に水が落ちる音が聞こえなくなっていた。雨が止んだのだ。ポツ……ポツ……とどこかの(くぼ)みに引っ掛かった雨粒がためらいがちに落ちるだけの中に、ジジ……と今津の煙草が燃え進む音が混ざった。そのくらい、室内は静かだった。


「……警察にこの動画を出して中津くんに無理矢理されそうになったと話しても、二人で仲良く部屋に入ってからベッドに入るまでが映ってる動画は、そんな無理矢理されたなんて証拠にはなりません。編集してカットしても履歴が残る。……中津くんが無理矢理した証拠はどこにもないです」


 ドクンドクンと心臓がうるさく鳴り続けている。今にも心臓が口から飛び出そうだった。

 そっと雲雀くんに手を差し出す。雲雀くんは無言でパーカーのポケットから録音機を取り出した。

 カチリと録音停止ボタンを押す。録音時間がこの部室に入ってから今までの時間と概ね一致していることくらい、それこそサルでも分かる。


「……この動画は(あらかじ)め部屋にセットして録画されたものだった。そしてこの録音は、その動画をネタにあなた達が五十万を強請(ゆす)った証拠です」

「……何言ってやがる、こっちが言ったのは――」

「五十万円です。録音されているのは、五十万円を出せという発言なんですから」


 ただし、概ね、だ。私がでたらめな相場を口にしたこととそれに乗って美人局側が金額を吊り上げたなんてことの記録はない。


「五十万円の恐喝(きょうかつ)……恐喝する金額が高ければ高いほど悪質性が高いと判断される、分かりますよね?」


 後から切り取れば痕跡が残る。だったら最初から切り取ったものを作ればいい。

 私達が作った証拠は、この人達に五十万円を恐喝されたことと、園田さんが矛盾した言動を繰り返したこと、それしか証明しない。


「……言っとくけどこっちも録音――」

「してないですよね」


 園田さんの発言は、あまりにもお粗末なハッタリだ。


「だって今の状況を録音してもそちら側に得はない。録音できるのは金を出せと執拗に求めて怒鳴る声と、(かたく)なに男が怖いと言い張るにもかかわらず平気で男に囲まれている園田さんの矛盾した行動だけ。そちら側が美人局をした証拠にしかなりません。そんなものの録音をしているはずがない」


 園田さんは口を噤んだまま開こうとしなかった。喋れば喋るだけボロが出ると分かっている。でももう充分に喋ってもらったから問題はない。


「あるのは、美人局の証拠だけです。……美人局は恐喝です。私達のお金は取られてないので恐喝(きょうかつ)未遂(みすい)でしょうか。でも今までの人達からはしっかりお金を取ったんですよね。全部でいくら貰ったんでしょう。五十万? もしかして百万? 一発で少年院に行くには充分な金額ですね」


 ジジ……と再び今津の煙草が燃え進む音が聞こえる。その煙草からはついに灰が(こぼ)れた。