ぼくらは群青を探している

 その三年生の顔にメリッ……と蛍さんの足がめり込んだ。あまりにも華麗で打点の高い回し蹴りに私は雲雀くんの背後で茫然とするしかなかったし、桜井くんも、その蹴りによって相手の胸倉が突如自分の手を離れたことに固まっていた。

 悲鳴を上げる間もなく、その三年生がゴトリと倒れるのを、蛍さんは冷ややかな顔で見下ろす。


「俺、顔面偏差値至上主義者嫌いなんだよな」


 たったそれだけの理由で……? まだ私のことがお気に入りなんだとかなんだとか言われるほうが納得した。


「……蛍さん、嫌いな人多くないですか」

「雲雀くん……そこじゃないよ……」


 あまりにも理不尽、そうでなくとも発言とこれに対する報復との釣り合いが全く取れていないここは、やはり無法地帯――いや、法があるとすればそれは蛍さんだ。


「で、お前ら何しに来たの」

「……土曜日に話してたヤツ、結局三国じゃなくて俺がやったほうがいいんじゃないかと思って、そういう話に」

「んあ? 別にいいけど、据え膳食うなよ。それ腹壊すヤツだから」


 とりあえず教室入りな、と蛍さんは踵を返す。もう誰も私達を見ようとしないし、当然のことながら聞こえるように話しもしない。

 六組の教室内は蛍さんが法だという共通認識があるのか、やはり誰も私達に野次を飛ばすことはなかった。ただ群青のメンバーの人達は私達に「おー、三国ちゃんじゃん」「なに、遊びに来たの」「ちげーよ、颯人のバカの尻拭いだ」「ああ、あれね」「桜井雲雀、お前らあんまり暴れんなよお」と友好的な話をしてからいなくなった。

 そして教室のど真ん中に蛍さんは腰かける。どうやらそこが席らしい。周りの席は空いていたので私達も各々椅子を引いて座り込んだ。


「ちょうどいいから芳喜も呼ぶか、二年のことはアイツに任せてたし」

「おーつかれさまでーす」


 蛍さんが携帯電話を取り出した瞬間、タイムリーに、能勢さんが教室に顔を覗かせた。教室内に残っていた三年生女子が「能勢くんじゃーん」「もっと遊びにおいでよー」と黄色い声で誘うけれど、能勢さんは「三年の教室なんて遠慮しちゃいますよ」と笑顔で軽く流し、蛍さんに向かい合うようにして隣に座った。


「なに、桜井くん達も颯人の件?」

「あー、まあそうです。俺がおとりやりますっていう」

「桜井くんが? まあ雲雀くんより警戒されないか」


 能勢さんは蛍さんと同じようなことを言いながら「で、俺は二年の様子を調べてきたんだけど」と携帯電話のメモ帳を見せてくれた。

 そのメモ帳の内容と能勢さんの話と蛍さんの話によれば、問題の美人局に遭う曜日はまばらだけれど、比較的水曜日に集中していた。声を掛けられる時間帯は午後八時を過ぎてから、当然のことながら決まって一人でいるときを狙われるし、使うホテルも同じ……。


「で、三国ちゃん達でこういう案を出したわけか。いいんじゃない」


 能勢さんは土曜日に作ったメモの写メを雲雀くんの携帯電話で確認して頷いた。


「あとは桜井くんが上手くやれるかだなあ」

「いやーもう本当に。顔に出ると思うんだよね俺。やっぱ侑生にやらせね?」

「まあお前ら新入り三人それぞれ役割分担でちょうどいいだろ」


 三人それぞれ? 新入り三人の私たちは揃って首を傾げた。桜井くんはおとり、私は交渉役だとして、雲雀くんは何の役割があるのだろう。


「雲雀は三国がポシャ話しに行くときについて行かせる」

「……別にいいですけど、俺じゃなくてもよくないですか」