追憶の愛情~想い出せない貴方へ~

それは響さんの携帯の音で…。

「…響さん、携帯鳴ってますよ」

私が遠慮がちにそう言えば

「…別に良いよ。放っとけば…」

響さんはその音を聞こえないフリをして
私を抱き締める力を強めた。

しばらく鳴り響いていた携帯の音も
1回は鳴り止んだが…

30秒も経たない内に
再び鳴り響く響さんの携帯。

「響さん、きっと急ぎの用事ですよ…。
出た方が…」

私が軽く胸を押してそう言えば

「…」

響さんは凄く不機嫌そうな顔をしながら
私からゆっくりと離れ、携帯を取った。

「何?」

…私には絶対に出す事の無い
低い圧力のある声。

「は?今すぐ?無理だって…。
怪我人も出てるって…
お前らだけで何とかしろよ」

…何の電話だろうか。
怪我人とか、何だか怖そうな話をしている。

「…分かった。今から行くから。
それまでお前らだけで何とかしとけよ」

響さんはそう言うと、電話を切った。