「神宮の中から出なきゃいいんだよね、これ? あっち売店あったから行ってみよ」
「名案だな。マジで寒い、暖まりたい」
「ジジイじゃん」
昴夜が先導を切って茶屋店に行き、暖まりながらイートインでおやつを買って分け合う。陽菜が「あとで送ってやるよ」と言いながら昴夜と侑生、侑生と私の写真を撮る。侑生はもちろん嫌がったけれど陽菜は強行し、私は少しヒヤヒヤした。
「英凜さあ、恥ずかしがってないでもっと雲雀とくっつけよ」
集合場所に戻りながら、陽菜がお説教じみた口調で言った。侑生と昴夜は少し前を歩いている。
「高校の修学旅行で彼氏が同じクラスなんて最高だろ、ちゃんと満喫しろよ!」
「満喫はしてるよ」
「してねーんだよ、雲雀と喋るのも桜井ばっかりだし。明日はちゃんと二人きりにしてやるからな、恥ずかしがってないで楽しめよ!」
肩を叩く力が強すぎて、前のめりに転んでしまいそうだった。
明日は自由行動日。当初の予定通り、私は侑生と二人で小樽市内を観光する。帰り道でさえ気まずいのに、丸一日デートをするなんて勘弁してほしい。重たい気持ちが胸にのし掛かり、深い溜息を吐いた。
次の日、私と侑生は小樽駅で地図を広げた。昴夜と陽菜は、それぞれ友達と彼氏といなくなってしまった後だった。
「どこ行くんだっけ」
「最初のバスでおたる水族館に行って、お昼前のペンギンのお散歩を見た後に定食屋さんに行って、バスで市街地に戻ってガラス細工を見る。晩ご飯は札幌駅まで戻ってスープカレー」
「予定表でも見たのかってくらい具体的だな。バス停ってあれか」
ザクザクと侑生のスニーカーが雪を踏みつけて歩き出す。その半歩後ろに私も続いた。
「英凜、バス来た」
「ああ、うん……」
侑生に促されてバスに乗る。移動中、私達の間には最小限の会話しかなかった。水族館に着いた後は、お互いに気を遣って魚の解説を懇切丁寧に読み、ペンギンのお散歩に大袈裟なくらいはしゃいで写真を撮った。お昼ご飯を食べる間は、撮った写真を見て無理矢理話題を作った。
この調子だと、明日の夜はやはり、Xデーとなってしまうのだろうか。
でも、そんな大喧嘩をしてしまうとしたら、それって不幸中の幸いってヤツじゃないの? ふと、状況を俯瞰した私がそんなことを言う。
侑生と別れておくことが、あの事件を防ぐために不可欠だ。あの大喧嘩は、別れを決めきらない侑生の背中を押すはず。あの事件が起きれば、未来を変えることに繋がるかもしれない。
……最低な考えだ。侑生は私を好きだと言う、それを受け取ると決めたのは私なのに、いまはまるで迷惑みたいな顔をして、自分が悪者にならずに済む方法を探している。
高校二年生の頃ならまだしも、私はもう大人なのに、あの頃からちっとも進歩していない。



