第一幕、御三家の桜姫



 第六西には、鉛のように重い空気が充満していた。全てを聞き終えた後、鹿島くんに「教えてくれてありがとな」と松隆くんが一言だけ告げて、そのまま三人は無言でここに戻ってきた。桐椰くんがソファ、松隆くんがベッドの端、月影くんがパソコン前の椅子と、みんななんとなくの所定の位置に座り込んで、ただ無言でいる。


「……これ」


 だから、桐椰くんの前の、サイドテーブルの上に、白い封筒を置いた。透冶くんが死ぬ前日に不正の事実だけを知って、それが透冶くんの死の原因だと思って、何もできなかったことをずっと後悔して、でも透冶くんのためにその苦悩を隠し続けていた桐椰くんの前に。

 桐椰くんだけが、透冶くんの死に殊更反応をしていた理由は、そこにあったんだと、分かったから。


「……生徒会室の二つ隣の、準備室ってところで見つけた。元生徒会室だと思う。宛名ないから中身ちょっとだけ見た。……三人宛てだったよ」


 無関心そうに、目だけで封筒を見ていた桐椰くんが弾けるように顔を上げるのを視界の隅に捉えながら、ここにいるべきじゃないと思って、私一人、第六西を出た。話し声に聞き耳を立てたくもなかったから、第六校舎ごと外に出た。

 ただ、三人を置いて帰る気にはなれなかった。第六校舎の入口の前で、ただぼんやりと座り込む。

 それから、数十分経った頃、御三家ではなく、鹿島くんが、第五校舎から出てきた。


「まだいたんだ? 他の三人は?」

「……積もる話もあるだろうから、置いてきた」

「そうか……。まぁ、そうだな」


 私と鹿島くんとの物理的距離は二メートル。お互い暫く無言だった。


「……透冶くんが死んだ理由を、知ってる人は知らなくていいって言った」


 先に口火を切ったのは私だった。


「それは、あの三人が自分達を責めると思ったからなのかな」

「そりゃ、ね。さっきは言わなかったけど、大騒ぎだったんだよ、雨柳が死んだ日は。雨柳のご両親よりも松隆とか、桐椰の母親のほうがめちゃくちゃに怒った。息子の幼馴染は実の息子みたいなもんだったんだろうな」

「……だから、透冶くんのご両親は、桐椰くん達に何も言わないように口止めをしたの?」

「ご明察。息子の幼馴染が実の息子と同じくらい可愛かったのは雨柳のご両親も同じだったというわけ。息子が自殺した直後はずっと哀しんでいたけど、数日後のあの気丈な振舞いには……、驚いたね」


 本当に、言葉通り、心底驚いたとばかりの様子で鹿島くんは話した。本当に仲の良い幼馴染だったんだね、とも。