第一幕、御三家の桜姫



「これはまさかの桐椰くんからハイレベルな解答が! 本日は黒髪の桐椰くん、私生活では金髪にパーカー、まさに不良の装いでしたが、中身は硬派な文学少年! こういうギャップもありですね~!」


 なるほど……、桐椰くんの女子人気はすさまじい。最早カップルではなく桐椰くん単体に投票されているといっても過言ではないし、最初からきっとそうだ。


「桜坂さんは、何か発見はありましたか?」

「そうですねー、料理上手っていうのはやっぱりポイント高いです」


 またポポン、と音がした。私に男子票が入ることはないだろうし、もう好き勝手に桐椰くんの女子受けを狙っていくしかない。


「あとは弟の面倒見が良くて家庭的ですね」

「だからお前は余計なことを言うのはやめろ!」

「あっ、それは私も聞きました! なんでも桐椰くんにそっくりの弟さんだとか! 兄弟揃って美形なんですね!」


 ミシミシッとまた私の指が不穏な音を立てている。兄弟の話くらいしてもいいじゃん、ケチ。ついでに手袋の下の自分の指が明日は青くなってるんじゃないかと思うと心配でならない。


「ところで話は変わりますが、御三家のお二人は打倒生徒会を掲げていらっしゃいますね。なぜでしょう?」

「はぁ? 別に不思議じゃねーだろ。つか一般生徒が生徒会の横暴に耐えてるほうが不思議でなんねーよ。生徒会には口出しも許されねぇってルイ14世もびっくりの絶対王政だろ」


 確かに、一般生徒を民に譬えようものなら、王たる生徒会長とその側近たる指定役員達の権力が絶大で、貴族といってもいい希望役員達はその完全な支配下だなんて、ルイ一四世ですら実現しなかった絶対王政かもしれない。まさに生徒会は――中でも生徒会長は国家そのものというわけだ。果たしてその皮肉が生徒会の皆々様に通じるかどうかは別だけど。現に多々羅さんは「えーと、そうですね……?」なんて微妙な反応。


「どうしたの遼くん、急に知的ぶっちゃって」

「下手なコメントすると蝶乃が口挟んできてうるせーだろ」

「なるほど」


 確かに蝶乃さんの口はこれ以上ないくらい歪んでぴくぴく痙攣している。それこそ頭をフル回転させて蝶乃さんを黙らせているというわけだ。でもそれじゃあ一般生徒からの票の入りも悪い。一周した多々羅さんはインタビューをやめてBCC全体の司会に移ってしまったし、御三家の獲得票はどうにも伸び悩んでいる。ただ、桐椰くんの諸々のお陰で、鹿島くんと蝶乃さんは九〇七〇点、桐椰くんと私は八九〇〇点とそこそこいい勝負だ。