わっと、形だけの拍手と歓声に歓迎される。グラウンド一杯に集まった生徒とその他一般客。その空気が、私達の姿を認めて思い思いにどよめいた。桐椰くんは構わずに司会者のいる中心まで歩くから私も手を引かれて歩く。確実に緊張しているはずの桐椰くんの背中は緊張なんてしていないかのように悠々と歩くから可笑しかった。
「……え……、っと……桜坂亜季さん、ですよね……?」
それから、多々羅さんの驚きを隠せない声も。松隆くんの計画はどうやら成功したようだ、と内心笑いながら、俯き加減だった顔を上げる。一瞬せり上がってきた嘔気は顔に出ないよう死ぬ気で堪えた。眼前に広がるのは、まるで王様にでもなったかのように高い位置からの、観客の顔。カメラ係の企画委員男子が、ゆっくりと私の顔を写す。私達のバックには大型モニターがあって、遠くからでも私達の一挙手一投足どころか表情まで見逃すことはない。だから、今度は表情にも出して笑って見せた。
「――はい。桐椰遼くんの彼女の、桜坂亜季です」
ざわっと、生徒たちが一斉にざわめいた。一般客にはきっとその驚愕の声を理解することができない。私の普段の状態を知らないから。
眼鏡をコンタクトにして、がらりと顔立ちは変わった。よしりんさんの化粧技術のせいでその変化は数倍に跳ね上がってさえいる。ドレスはマーメイド型で、背中は腰までしっかり開いて、アクセントに大きなリボン。アンタは胸があるんだから使いなさいとよしりんさんが親指を立てて見せた結果、正面はハートカットネック。紐で縛られた痕を隠すため、肘下までの手袋。体型を存分に生かしたドレスを着た私は、我ながら最早別人だ。
そして全ては漆黒。多々羅さんが唖然として言葉を失っている。
「こ……これはなんということでしょう! 桜坂亜季さん、普段の様子からは想像もできない変化を遂げています! 生徒のみなさんも驚いています!」
「あれが桜坂?」「詐欺のレベルじゃね?」「あれなら御三家に囲われてんのも納得だわ……」とみんな見事に松隆くんの計略に乗せられている。きっと、ここまで施したところで、私はずば抜けて美人ではない。タイプが違うから好みはあるといえど、蝶乃さんのほうがやっぱり綺麗だと思うし、そのはずだ。ただ違うのは、蝶乃さんは日頃から綺麗で、私はその逆だということだ。
「そしてなんと、桐椰くんの、黒髪です!」
キャーーッ、としか言い表せない、耳を劈くような黄色い歓声が上がった。桐椰くんが一瞬顔をしかめ、緊張がほぐれてきたのを感じる。桐椰くんを黒髪に染めた理由は、きっと私のドレスとも合わせて漆黒にするためだ。多々羅さんが興奮を隠しきれない様子でマイクを桐椰くんに向ける。



