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桐椰くんの言葉を合図にしたように「では、これでエントリーナンバー七のお二人のアピールは終わります」と司会者が告げた。外から見えない位置から、舞台のカーテンが開くのを見る。拍手をその背に浴びながら、大きい方の影に手を引かれた小さな影がゲートをくぐるようにこちら側へやってきた。そういえば鹿島くんと蝶乃さんが直前のペアだって言ってたっけ。幕が閉じられて暗闇が訪れ、ピンのハイヒールを履いているに違いない足音が段々と近づいて、私達の目の前を通過する。
真っ赤な、プリンセスラインのドレス。細身の蝶乃さんには残念ながらとっても似合ってて、華奢な肩や腕が一層女性らしさを際立たせる。結い上げた髪にはどう考えても宝石の髪飾りがついてるし、まるで本当のお姫様のようで、何度も目を瞬かせてしまった。得意げな表情の蝶乃さんは私達に目も向けない。まるで余裕を見せつけるようだ。お陰で蝶乃さん達はすぐに私達の前から去ってしまうし、鹿島くんなんて蝶乃さんの存在感に隠されてうっかり見損ねた。
「うわぁ……遼くん、元カノすっごく綺麗だね」
「……元カノは関係ねーだろ」
「遼くんもイケメンだよ、自信持って」
「これは自信なくしてる顔じゃねぇよ」
見上げた桐椰くんは珍しく唇を引き結んで、何かを堪えるような表情をしていた。よしりんさんが「緊張してるのね……」と呆れた声を発しても何も言い返さないくらいだ。
「確かに大勢の前でこんな可愛い彼女の紹介するなんて恥ずかしいよね」
「…………」
「まぁそんなに緊張しないでも大丈夫だよ遼くん、ぶっちゃけ御三家ファンは松隆くんが一番でしょ?」
「……どうでもいいけどお前に言われると腹立つな」
「だってー、事実だもん。きっと遼くんに注目する人なんてそういないって。そもそも黒髪になったらみんな認識できないかもよ?」
「……そうかもしれないな」
「……大丈夫だよ遼くん」
返事をする桐椰くんの声は固いし、いつもの憎まれ口も返ってこない。「BCCもいよいよ終盤、最後のエントリーは皆さまのご目当てのお二人です!」と司会者――多々羅さんだっけ――の興奮した声が聞こえた。私の中に緊張はなくて、まぁせいぜいあるとしたら気分の悪さくらいで、ただそっと自分の手を握りしめる。
「本物かどうかなんて、大した問題じゃないんだから。大事なのは、偽物がいかに本物らしく振る舞えるか、だよ」
「――御三家の桐椰遼くん、そして御三家の姫と謳われる桜坂亜季さんです!」
「いってらっしゃい、亜季ちゃん」
多々羅さんが喋り始めたのに被せるように、低い男の人の声が私からガウンを奪った。頷くことはあっても振り返ることはない。桐椰くんだって私を見向きもせずに左手だけ差し出している。形だけはエスコートしてやるということですね。鉛のように重たい腕を持ち上げて、ひょいとその指先に自分の指を載せた。手袋で布一枚隔たれば、桐椰くんの体温など感じない。
登場するために一挙に幕が開かれ、ゆっくりと踏み出す。あぁ、眩しい、余計眩暈がする――なんて、桐椰くんが聞いたら余裕だなとコメントされそうな感想だけを抱いた。
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