「さぁ、お次はエントリーナンバー6、水泳部のキャプテンとマネージャーのカップルです!」
司会の声が聞こえる中、BCCコンテスト参加者の控室に行くと、桐椰くんはいなかった。蝶乃さんカップルはナンバー7だからステージ真横のスペースにいるらしいけれど、他のカップルは思い思いに束の間の休息を過ごしている。どうやら八組目までアピールが終わってから整列するらしい。お陰で誰も私が入ってきたことに気が付かない。ついでに桐椰くんもいない。私のドレスの裾を持ってくれているよしりんさんを振りむいた。
「いませんね、遼くん」
「何言ってるの貴女。目の前にいるじゃない」
「え? 何言ってるんですかいませんよ」
よしりんさんは顔をしかめて顎で刳ってみせるけれど、そうは言われても桐椰くんはいないのだ。きょろきょろと室内を見回していると、背後から大仰な溜息が聞こえた。
「貴女ねぇ。いくら仮装とはいえコンテストまで出るんだからしっかりしなさいよ。目の前のがそうよ」
「……え?」
目の前に座る人は確かに目を点にして間抜けに口まで開けて私を見上げている。その柳眉も高い鼻も美白も、確かに見覚えがあった。でも違う。
「え、いや、私の知ってる遼くんはこんな正統派イケメンではありません……」
「失礼なこと言ってんじゃねーよ! つかその喋り方、やっぱりお前かよ!」
怒鳴りついでに立ち上がったのは、まるで紳士のような正統派の漆黒の燕尾服に身を包み、同じく正統派に黒髪をセットした桐椰くんだった。
「えっ、ちょ、何で!? 何で遼くん黒髪なの!?」
「うるせーな、されたんだから仕方ねーだろ! 早く洗いたくて仕方ねーよ!」
「あらそんなこと言わないでよ? すっごくアタシ好みのいい男になってるわよ」
「だから早く洗いてぇんだよ! 鳥肌立つわ!」
よしりんさんの手を全力で逃れ、桐椰くんは蹈鞴を踏む。「そんなに嫌かしら……」とよしりんさんは頬に片手を添えながら小首を傾げた。桐椰くんは顔をひきつらせながら後ずさる。



