「黒といえばこの四種類かしらねえ……。あなたどれか好みある?」
「えっ……そうですね……できれば一番地味なのが……」
「あら、なんでアタシこんなの持ってきちゃったのかしら。これ女子高生に着せるデザインじゃないのよね、却下しましょ」
そして意見を言う暇を与えてくれない……。ドレスを指定しようと伸ばした私の腕は虚しく宙に浮いている。一八〇センチ・推定体重七十六キロのオネェさんは難しい顔でドレスを両手にとって見比べている。
「こっちは胸が窮屈ね。あるもの使わないなんて宝の持ち腐れは許されないわ。蝶乃の小娘はないものを詰めて誤魔化そうってんだから」
「あのー、鬼瓦さん……」
「ちょっとアタシ自分の苗字嫌いなのよ! よしりんって呼んで頂戴!」
よしりん……。振り向いた鬼人の面には頷く以外できなかった。
「よ……しりん、さんは……蝶乃さんの知り合いなんですか……?」
「貴女が言ってるのは娘のほうでしょ? アタシが言ってるのは母親のほうよ。アゲハ模様のブランド、知ってるでしょ?」
――あぁ。合点がいった。確かに、〝B.B.〟というアゲハ蝶をモチーフにしたロゴのブランドがある。鬼瓦――よしりんさんは苦虫を噛み潰した。
「なーにがBeautiful Butterflyよ、ネーミングセンスの欠片もないわ。服もバッグもヘンテコリンなのばっかり、色さえ奇抜にすりゃいーってんじゃないのよ。取り巻きだってぞろぞろ引き連れて葉に群がるチャドクガの幼虫かってのよ! あんな会社の令嬢に負けるんじゃないわよ!」
……なるほど。蝶乃さんもお金持ちなのはわかってたけれど、女子高生からOLへのプレゼント用に御用達の有名ブランドの社長令嬢だったのか。それにしても例えが秀逸というか気持ち悪い。ついでに一瞬にして不機嫌になったよしりんさんは腕を組んで足を踏み鳴らして「蛹が蝶になる瞬間を美しいとかいう世間の評価がそもそも理解できないわ。蝶をよく見なさいよ、気持ち悪いには変わりないじゃないの」と文句を言っている。体は男の人なのでこちらにまで地響きが伝わる強さだ。ぐらぐら頭が揺れるので正直やめてほしい。
「貴女の素材の無駄遣い具合、気に入らないわー。総ちゃんから酷いとは聞いてたけどまさかここまでとは」
え、松隆くん、そんな一言でバッサリいったの? それこそ酷くない?
「いい、花の寿命は短いのよ? 貴女の苗字にもついてるでしょ、花の名前が。花は散ったら実になって次の年にまた咲くけど、女は散ったらそれっきりなのよ。二度と花は咲かないのよ。だったら咲いてるうちに存分に男を誘惑するもんでしょ!?」
「ひっ!」
松隆くんの暴言にショックを受けて油断していたせいで、よしりんさんは叫ぶと共に私の肩を両手で掴んで揺さぶった。あぁ、やっぱり男の人だ、手が大きくて力が強くて痛い……。まるでヤンキーのように私を下から覗き込むように睨みつける。
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