嘔気と頭痛を必死に抑えながら、グラウンドに臨時に設置されたステージ裏へ向かう。ステージの裏に直結する形で参加者の控室とメイクアップ用の部屋が用意されているのだ。『桜坂亜季様』と札の貼られた扉を開けると、既に部屋の中にいた誰かが振り向いた。とても背が高くて、肩につくくらいのアッシュの髪をうなじ辺りで結んでるお洒落な人で、その顔立ちも彫が深くて日本人とは思えなかった。長い睫毛の上には爪楊枝でも乗らないかな、とどきどきしてしまったし、高い鼻はちょっと指先でなぞってみたい気持ちに駆られた。
「こんにちは……」
きっと松隆くんが呼んでくれたメイクアップアーティストさんだ。聞いた名前は鬼瓦吉野さんとなんとも怖そうな名前だと思ったけれど、すらりとしてて鬼なんてとんでもない。ドキドキしながら扉を閉めると、その人はふんと鼻を鳴らして見せる。
「ヤダ、折角いい身体してるのに何なのその無頓着な頭は」
「は、はぁ……」
そしてバスの声が冷ややかに告げた。そう、バスだ。まぁ確かに誰かを綺麗にするのに性別なんて関係ないよね、うんうん。そう心で納得していると「さーてじゃあ改造するわよ」と和風喫茶のために来ていた着物の帯を躊躇なく解かれた。
「え!」
「安心して、女の子に興味ないから」
問答無用で着物を剥いていく彼に慌てて逃げようとすると、その手はがっちりと帯を掴み、その唇で綺麗な孤を描く。そうは言われてもビジュアル的に俄かには受け入れがたい……。ただ、袷の中に突っ込んでいた白い封筒を鞄の中に移し替えてて正解だとは思った。
「何よ、何か文句あるの?」
「……いえ。歌を歌ってほしくなるような素敵な声だと思っただけです」
「アラありがとう! あの総ちゃんの友達っていうからどんな腹黒かと思えばイイコじゃないの」
鬼瓦さんは、私を完全に脱がし終える前にガウンを渡してくれて、下着だけになる前になんとかくるまる。それでも本当に女の子に興味がないのか(はたまた私に興味がないのか)、無視して何やら衣装ケースを引いてきた。ガラガラなんて音を立てているからごっくんと唾を飲み込めば、開いた扉の中には色取り取りのドレスが大量に掛けてある。輝き過ぎて目が痛い。お陰で増す眩暈を必死に堪える羽目になる。
「……あの」
「せっかく張り切って持って来たのに、ドレスは黒指定なんですって。まったく、総ちゃんの我儘には困ったものだわ」
私のことを無視して、鬼瓦さんはブツブツと(おそらく)松隆くんに文句を言った。
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