第一幕、御三家の桜姫



「……俺は透冶のためにお前を利用するって言ったけど、いくらなんでもお前の身を危険に晒すほどじゃない……」

「あのねぇ遼くん」

「イテッ」


 あまりに神妙な面持ちがむずがゆくて、桐椰くんの深淵を覗いてしまいそうで、それを知ると桐椰くんを理解(わか)ってしまいそうで――怖くて、慌ててその額を弾いた。面食らった桐椰くんが、空気の読めない私に一瞬苛立ったのを肌で感じる。松隆くんは私の計算を読み取るように片眉を吊り上げたけれど、桐椰くんにどんな誤解が生じたって関係ない。


「いいんだよ、私は。私は分かってて御三家と取引してるんだよ。私にとってはね、死ぬことよりも優等生でいることのほうが大事なんだよ」

「お前何言って……、」

「本当に利害は一致してるんだよ、遼くん。安心して、私は全然傷ついてなんかないよ。心配することなんてないよ。だからベストカップル賞をもぎ取るべく全力でおめかししようよ。ね!」

「……だから俺は、」

「遼、桜坂がこう言ってるんだ。謝るのは後にしよう、桜坂の好意を無下にしないためにも」


 ある意味で空気を読んだ松隆くんが、桐椰くんの肩を掴んで落ち着けと言い聞かせる。桐椰くんは松隆くんを容赦なく睨みつけるけれど、「……分かったよ」と半ば振り払うようにその手を逃れ、アジトを出て行った。ピシャンッと勢いよく扉が閉められれば、教室全体が揺れた気さえする。月影くんはその後ろ姿を追うように視線を向けていたけれど、呆れたように松隆くんを見る。


「総……、どうするんだ、アイツは」

「……さぁ、どうしたものか」

「え? なになに、何の話してるの?」


 顔を見合わせる二人を見上げながら眉を顰めていると、松隆くんが額を押さえて重い溜息を吐く。


「アイツ、言ってただろ……透冶の両親に遭遇したって」

「あ、そう、その話」

「生徒会が直々に招待状を出したそうだ。今日は一日楽しんでいくと仰っていたと遼が話した」


 月影くんが隣から補足した。

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