第一幕、御三家の桜姫



 彼方は私を送り届けることで役目を果たしたということで、そのまま私をアジトのベッドに座らせていなくなってしまった。松隆くんと月影くんが頭を下げてお礼を言って、桐椰くんはソファに座ったまま何も言わなかった。彼方も桐椰くんにだけは声を掛けずに、私に再三「絶対に無理はするな」と言い置くだけだった。

 扉が閉まった後、松隆くんは私の前にやって来て「ごめん、桜坂」頭を下げた。まだ意識がはっきりしないとはいえ、さすがに松隆くんにそんなことをされると、頭の機能の一部がはっきりしてきた。


「え、いいよ別に……私の不注意でもあるし……」

「そういう問題じゃない。俺達はお前を守るって約束したから」

「でもやったのは舞浜さん達だし、生徒会役員関係ないから守備範囲外では?」

「守ってやるって約束したんだ。相手は関係ない」

「まぁ……でもそんなに気にしなくても……」


 苦々し気な表情が本心だと教えてくれて、かえって戸惑って首を横に振る。次いで松隆くんの隣に立った桐椰くんも、酷く暗い表情をしていた。


「どうしたの遼くん、らしくないな。そう落ち込まないでよ、私無事だし」

「……悪かった」

「だからいいってば。そんなことより早く準備しようよ、もう始まってるんでしょ?」

「雨柳の――透冶の、両親に会った」


 吐き出すようなその事実に、頭痛も忘れて息を呑んだ。


「え……」

「……檜山に呼ばれて手伝ってるときに、ちょうど、雨柳のおじさん達が来た。それで……、少し、話し込んでた。でもだからってお前を無視してていい理由はなかった。本当に悪かった」

「え、待って……そんなことはもうどうでもいいよ、」

「どうでもよくないだろ!」


 透冶くんのご両親に会って一体何を話したのか、訊ねようとした私を桐椰くんの大声が遮った。吃驚して身体が僅かに跳ね上がったし、目だって見開いて桐椰くんを見つめ直してしまった。月影くんだって、眼鏡の奥に見えた目は少しばかり驚いていて、松隆くんも桐椰くんの隣で腕を組んだまま少し目をぱちくりさせている。


「睡眠薬じゃなかったらどうなってたと思う? 劇薬でも嗅がされてたら死ぬってことくらい分かってんだろ! そうじゃなかったからよかったものの……もう少し危機感持てよ……、俺が言えたことじゃ、ねーけど」


 語尾は小さく萎んでいき、桐椰くんは俯いて「……だから悪かったって言ってんだよ」と繰り返す。

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