「どした?」
「ううん、桐椰くんには俵担ぎされたなあと思って」
「ったくアイツは……」
女の扱い方が分かってないんだから、とぼやきながら、月影くんに続いて彼方は廊下に出た。見上げたときに書いてあった教室の札は「準備室」。何の準備室だったんだろう。そもそもどこの校舎なんだろう、と思って周囲を見回せば生徒会室の二つ隣の教室だった。どうりで探しに来るのが遅かったはずだ。生徒会室を真っ先に探しても、その近くは探さないかもしれない。文化祭中で人が来ないことになってる特別棟をしらみつぶしに回った後だったのかも。
「……あの時、亜季ちゃんを口説き落とせてたらなぁ」
不意に彼方はそんなことを嘯いた。
「そしたら御三家と言わず俺が守ってあげたのに」
「……彼方は女の子相手なら誰にでもそういうことを言うから駄目なんだって」
「仕方ないだろ、女の子はみんな可愛いんだから」
「みんなに優しい人は恋人ができないよ」
「はは、その台詞、何回も言われたことがある」
「分かってるんだったら一人だけに優しくしなよ……」
「んー、俺は困ってる子を可愛いと思っちゃう質だからなぁ」
それこそ困ったように彼方が笑う気配がする。
「だから亜季ちゃんを口説けなかったのか」
「そういうわけじゃないけど、そういうことでどうぞ」
「冷たいなぁ。まぁ、確かに亜季ちゃんのことは親戚の妹くらいの感覚だからな」
第六校舎の前まで来て、月影くんが扉をノックする。
「遼の嫁に来たら、そりゃ可愛がるけど。アイツにはちょっと任せられねぇかな」
すぐさま開いた扉の向こうには、いつだって余裕ありげな笑みを湛えるくせに、まるで必死に探し回ってたかのように憔悴しきった松隆くんがいた。
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