「言ったでしょ、あれから私がどうしたか……。私は、良い子っぽく在る必要があるから、そのために松隆くんに協力してるだけだよ……。桐椰くんと付き合ってるのだって、そうだよ」
ただの見せかけだし、と呟くと同時に腕が自由になった。のろのろと手を目の前に持ってくると、手首に赤い痕がついている。
「……手袋をするような衣装だったら隠せるけどなあ」
「……亜季ちゃん、やめときなよ。顔色も悪いし」
「そうだよ彼方、私、薬なんて飲み慣れてないから耐性がないんだ……やめてほしいよね」
よしよし、と大きな手が頭を撫でてくれた。頑張ったね、と言ってくれたみたいで無性に泣きたくなった。
「桜坂、大丈夫か」
それでも、月影くんという他人さえいれば涙は引っ込む。「おっけーです」と彼方の体に隠れないように顔を傾けて返事をした。
「でも、さすがにちょっとしんどいから……BCCの順番、っていうのかな……御披露目が一組ずつなら、最後に回してもらえばなんとかなるから」
「……分かった」
「こら駿くん、分かったじゃないだろ」
頷いた月影くんに彼方がちょっとだけ怒気を孕んだ声を出す。月影くんの表情が若干強張って「でも桜坂本人が……」「強がりって言葉があるだろ」とちょっと不穏な遣り取りを始めた。
その隙に、さっきからなんとなく気になっていた白い封筒に手を伸ばした。セロハンは剥がれなかったけれど、ビニール袋を引き裂けば、白い封筒だけは取り出すことができた。見た目よりは厚くて、透かし防止用のそこそこ上等な封筒だった。手に持ってると彼方に何か言われそうだなぁ、と袷の中によいしょよいしょと差し込む。ぽんぽん、と胸の上から叩いて、きちんと仕舞えたことを確認する。月影くんと彼方はどちらも譲ってないようだから「私は大丈夫だよー」と助け船を出したつもりだったのだけれど、彼方はやっぱり顔をしかめる。
「亜季ちゃん、だからなあ」
「だいじょーぶだいじょーぶ。ちょっとだけだし、ね」
「……あんま無理すんなよ」
女の子が譲らないことを彼方が否定できることなんてないのだと、私は知っていた。不承不承ながらも頷いた彼方に心の中でゴメンネと謝れば、次は有無を言わさず抱き上げられる。軽々とお姫様抱っこできてしまうことに感心しながら、弟の桐椰くんに俵担ぎされたことを思い出して笑ってしまった。
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