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「……手がこんなんじゃなかったらとるんだけどな」
手を動かすと、ロッカーの扉ががたがた揺れた。薬のせいでぼーっとして縄抜けの準備をし損ねたせいだ。万全の状態ならみすみす監禁されることなんてなかったはずなのに。つくづく、余計なことをされた。
「……しんどい」
どうしてこんなことになったんだろう。ずっと座っていたせいで、うとうとと目蓋が落ちてきた。このまま眠れば、頭痛は収まるだろうか。
こんなことってあるか!と、叫びたいほど哀しくなったときに、私の頭上には不幸の星でもついてるのかなあと思った。助かったと思ったら落とされて、また手を差し伸べて貰えたと思ったら落とされての繰り返しみたいだ。花高なら上手く静かに過ごせると思ってたのに。有希恵のことを、初めて出来た友達だと勘違いして庇ってしまったのが間違いだった。あの時に妙な正義感を振りかざさなければ、こんなことにならなかったのかな。……違うや、力もないのに正義を振りかざしたから失敗したんだ。御三家のように、力を以て初めて、正義は正義になる。御三家と違って、私はただの一人の女の子だ。普通ではなくても、凡庸だ。
『俺の大事な亜季』
……なんで、こんなときに思い出したんだろう。暗闇にいるからかな。助けてほしいって気持ちが似てるからかな。
もう、あの人は手を差し伸べてくれないのにな。
ズキズキと頭が一層痛み始めたせいで思考は止まった。目を閉じると頭痛がマシになるような気はするけど、またすぐに意識が持って行かれそうになる。こんなんじゃだめだ。私は御三家のために、BCCに出ないと――。
ガクンと頭が落ちる感覚がした。
「──もう此処にいなかったら知らねーからな!」
ガタガタッ、と扉が揺れた。ん、と半分ほど落ちていた目蓋を押し上げる。「あぁくそっ」なんて悪態も聞こえた。この声は……。
「はぁっ!」
気合を入れる雄叫びと扉が壊れる衝撃音が耳に届き、それと同時に廊下からの光が目に差し込んだ。バタンッときれいに倒れた扉の向こう側から、息切れした影が二つ歩み寄って来た。
「いた……!」
「……今日は、制服、着てないんだね……」
徐々に慣れた視界に立っていた彼方は、いかにも大学生みたいな恰好をしていて、やっぱりもう高校生なんて無理だよと笑い飛ばしてあげたかった。それでも、どっと圧し掛かってきた疲労感でそんなことは言えなかった。そうだ、彼方だってもう高校生じゃない。月日は流れている。もう、あの人が助けてくれないのも当然なのかもしれない。



