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その三十分間のラストスパートのせいで、コンテストを待たずして私は疲労困憊、さすがの桐椰くんも疲弊し、お昼前には揃ってぐったりと教室の隅で座り込む羽目になった。お客さんに見えるところで休むなと怒られたので、すぐに裏方に引っ込んだけど。
「つ、疲れた……もしかしてこれ蝶乃さんの差し金かな……」
「蝶乃は噛んでなくても、お前を気に食わない連中は噛んでるかもな……」
「遼くんが私を雑用から守ってくれないから……!」
「俺達とお前との契約はいじめから守ることだろ。雑用は含んでねーよ」
「確かに……」
ぶつくさ言っていると、クラスの子が「お疲れ様!」と裏方に顔を覗かせた。その両手にはプラスチックカップ入りのジュースがある。
「特に桐椰くん、ありがとー! 桐椰くんのお陰で大盛況だったよ、これおごりね!」
ご丁寧にジュースは二人分あるけど、私の存在は無視、と……。なんなら手渡されたジュースのうち、桐椰くんのカップには「おつかれさま」とハートマーク付きのメッセージが書かれていたのに、私のカップは「おうさか」と事務的に書いてあるだけだった。
「……なんか私の扱い酷くない?」
「主人と一緒にジュース貰える下僕なんていねーぞ、もっとありがたがれよ」
「え、私達に身分差なんてありましたっけ、おかしいなあ」
疲れた喉に冷たいオレンジジュースが染みわたる。でも確かに、主人と一緒でなければこれは貰えなかっただろう。
「ねー、桐椰くん」
そんな小休憩をしていると、檜山さんが顔を覗かせた。ヤンキー座りの桐椰くんはジュースを飲みながら顔だけ上げる。
「ちょっと手伝ってほしいことがあるんだけど、来てくれないかな?」
「それ、俺じゃないとだめなのかよ」
「背が高くないと届かないの。お願い!」
そう言われるとこのお人好しヤンキーくんは断れない。ズズズ、とジュースを飲み干すと、渋々ながらも立ち上がった。
「ここで待ってろよ」
「はーい、大人しくしてまーす」
桐椰くんが檜山さんに連れていかれて、教室には私ひとりが残される。暇つぶしにスマホでも持ってくるか、と立ち上がったとき――ふらりと眩暈に襲われた。
「……あれ……?」
ただの立ち眩みにしては視界だけではなく頭までぼんやりとする。真っ白になっていた視界の靄がゆっくりと晴れていく一方で、目蓋が加速度的に重くなっていく。なんだ、なんだ、一体、なに――。
立っていられなくて思わずその場にへたりこんだ。異様なほどに目蓋が重たい。このまま寝ないと死んじゃう、比喩でなくそう思えるほどの眠気。
桐椰くんが戻ってくるまで起きてなきゃ、なんて考える余裕もなく、ゆっくりと目蓋が落ちていく。
小さくなっていく視界の隅で、教室の扉が開いた。
「本当、ムカつく」
その声を最後に、意識を手放した。
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