第一幕、御三家の桜姫


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『桜坂に手を出すのは、御三家に手を出すのと同じだと思え。手を出せば俺達がお前をこの学校から排除してやる。どんな手を使ってでも、だ』


 笛吹さん事件のときに松隆くんが口にした台詞を思い出す。あの言葉は、本当だった。

 私と御三家との関係は、主従関係だ。間にあるのは取引だ。生徒会を潰すために――透冶くんの死の真相を知るために、女子でないと入れない場所に入ることを条件として、御三家に守られる。笛吹さん事件のような〝計算〟は私の了承がない限り二度としない、以後は必ず守ると、そう言ってくれた松隆くんは、びっくりしてしまうほど忠実に約束を守ってくれた。


「……優しいなぁ、リーダー」


 思わず、頬が緩んだ。計算づくの腹黒い人だとは知ってるけど、それでもちょっとだけ感動してしまう。桐椰くんが言い渋ったのは、それが松隆くんの言う〝御三家のスタンス〟で、今も心配していることに気恥ずかしさを感じているからなんだろう。


「あっ、遼くんにも感謝してるよ! 嫉妬しないでね!」

「お前はマジで一言余計だな……。いいから早く仕事しろよ、手伝えって言われてんだろ」

「はあい。可愛い彼女(わたし)のことしっかり見守ってくれてていいからね」

「馬子にも衣裳(いしょう)程度で何言ってんだ」

「でもそれ誉め言葉じゃん」

「ポジティブかよ」


 口先では文句を言いつつ、私が教室内に入っても桐椰くんは教室の前から動こうとしなかった。私は基本的には教室内にいるから、出入口の一ヶ所に立っておけば不穏な気配は察知できるし、桐椰くんが見張っているとなればわざわざ危ない橋を渡って手を出したりしないだろうという想定だろう。


「うーん、やっぱり意外とお人好し」


 松隆くんは涼しい顔で私を利用してみせるくせに、桐椰くんは私を(おとり)に使おうとしたことさえないんだよな……。松隆くんと桐椰くんは見た目と中身が逆だ。

 それはさておき、私だって桐椰くんで遊んでばかりはいられない。午前と午後のシフト交代のタイミングは、お客さんがやって来るピークの時間帯でもある。お陰で「桜坂さん、これ運んで」「これ洗ってきて」「お会計立ってきて」と次々と手伝いを命じられる。猫の手も借りたいならぬ私の手も借りたい有様、とにかく指示されるがままに飛び回る羽目になった。私でさえその有様、教室前に立っていた桐椰くんは「暇ならお客さんの相手して!」と使われていた。普段なら御三家の桐椰くんがそんなに軽々しく使われることはないはずなのに。