クラスのシフトが終わる少し前、桐椰くんは遥くん抜きで一人で帰ってきた。
「あれ、遼くん、遥くんは?」
「午後から友達と合流するって。それなら早く言えって話だよな」
「お兄ちゃんに案内してもらいたかったんじゃないの、桐椰くんと違って可愛いじゃん」
「お前が見たかったんだと」
「私?」
また妙なことを言う、と眉を顰めてみせれば、桐椰くんは眉間の皺を深くする。
「おかしいと思ったんだよ、俺が家出た後で急に来るって言いだしやがって……。しかも案内しろとか、わざとうちのクラスに来るとか……」
「お兄ちゃんの彼女が気になるなんてブラコンなんだね」
「ただの好奇心だよ」
「でもいいじゃん、兄弟仲が良いのはいいことだよ」
はぁー、と桐椰くんは深い溜息を吐くけれど、彼方も極度のフェミニスト兼女好きってところ以外は何も問題ないし、遥くんだって無表情だけど可愛いし。いい兄弟だと思うけどな。
「お前も妹来てんじゃねーのかよ」
「うん、桐椰くん達が来るちょっと前に来てたよ。丁度入れ違いくらいかなぁ」
それがどうかしたの? と訊ねれば、桐椰くんは少し不可解そうな反応をした。
「……いや。文化祭に来るくらいだから、お前も妹と仲良いんじゃねーのって言いたかったんだよ」
「あー、うん、そうだね。そうかもしれない」
「そうかもしれないって……」
「ていうか遼くん、私のシフト、終わるまでまだ三十分くらいあるんだけどどうしたの? そんなに私のシフト終わるのが待ち遠しかったの?」
「んなわけねーだろうるせーな。生徒会にお前が襲われたら困るから見張ってたんだよ」
「でも昨日の午前中も一人だったけど平気だったよ? クラスの仕事中も何もなかったし……」
杞憂じゃない?と小首を傾げると、桐椰くんはがしがしと金髪を掻き混ぜる。
「……昨日の午前中は総が裏で片してただけ。今日の午前中だって駿哉がずっと見張ってたよ。鹿島と蝶乃は今日はクラスの準備で見張りようがねーからな」
きょとんと、思わず目を丸くしてしまった。それはつまり、何気なく過ごしているつもりでも御三家はきちんと私の身を案じてくれていて、昨日の午前中に松隆くんに遭遇したのも偶然じゃなくて、丁度生徒会役員を排除してくれた後だったってことだ。きっと彼方に会って話したことにも気づいてて、松隆くんは私のことを桐椰くん達より知ってるから、彼方と知り合いだってことにも違和感を抱かなかった……。



