第一幕、御三家の桜姫


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「遥くん、人見知りって聞いてたけど全然そんなことないんだね」

「まぁ……遼の彼女なら身内みたいなもんですから……」


 随分と気が早い。ひくっと頬が引きつった。期間限定の彼女ですなんて言えない。なんならその期間は今日をもって終了だ、とも。


「嘘吐け、お前兄貴の彼女と会っても一言も喋んねーじゃねぇか」

「彼方兄ちゃんは入れ替わり早すぎるから彼女も他人だよ。遼は全然彼女作らないから出来たら身内みたいなところある」

「ねーよ! なんだその無茶苦茶な理屈は!」

「じゃあ蝶乃さんとも仲良く喋れたの?」


 確かに桐椰くんは女子を侍らせていないとはいえ、蝶乃さんとは付き合っていたはずだ。きょとんと首を傾げると遥くんの顔が引きつり、桐椰くんを責めるようにじとっと見つめる。


「普通元カノの話する?」

「俺じゃねーよ、総達が勝手に話したんだよ」

「面白いから私も全然平気だよ」

「面白いって言うな!」

「ならいいですけど……。あの手の女は俺は嫌いなんで無理です。何か鬱陶しくて鼻につくじゃないですか」


 遥くんとは仲良くなれそうだ。今食器を大量に抱えてなければぜひ両手を握って激しく頷きたかった。桐椰くんは蝶乃さんについてはコメントするのを避けて「つかお前、仕事早く行けよ」と顎で階段の方向を示す。確かにそうだ。


「じゃあ私はこれで。遥くん楽しんでね。遼くんに奢ってもらうといいよ」

「そのつもりです」

「んな金ねぇよ!」


 手を振ってその場を離れながらも、頭の中は桐椰三兄弟のことで一杯だ。豪放磊落なんて言葉の似合う彼方と、いつも不機嫌そうでちょっと子供っぽい桐椰くんと、無表情で淡々と可愛い遥くん。まぁ、そっくりな兄弟ってわけじゃないけれど、あの忌憚のなさというか、言葉の遣り取りの間に感じる空気というか、そういうものはどう見ても兄弟だ。


「……兄弟、か」


 振り向いたときにはもう二人共見えなかったけれど、脳裏にその姿は焼き付いていて、ぽつんと呟いた。

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