「……ねぇ松隆くん。そろそろ私、刺されそうなんだけど」
「そのための御三家だろ」
「寧ろ御三家のせいなんだよ……あぁっ!」
そう答えて、月影くんの言葉を思い出して頭を抱える。桐椰くんに興味を持たれた時から私には選択肢が消えていた、という言葉は正しかった。御三家に守られなければ学校で生きていけないのに、守られれば守られるほど学校で生きる術がなくなってゆく。私の悲哀の籠った嘆きの真意を読み取った松隆くんがその口角を一方だけ吊り上げた。悪魔め。
「ところで、駿哉がどうしてるか知ってる?」
「疲れたって一言連絡あった。三年四組にいるっていったからもうすぐ来ると思う」
なんて、噂をすれば影。教室の入口から小さな歓声が聞こえたかと思えば、ものすごく迷惑そうな顔をした月影くんが立っていた。隣に立つメイドとのセットがあまりにも不自然過ぎて違和感がすごい。メイド喫茶が似合わなさすぎる。
ただ、二人は辱めは共有したいとでも目論んでいるのか「駿哉、こっち」「早く入って来いよ」なんて手招きをしている。月影くんの眉間のしわは、ここから見ても分かるほど深くなる。多分そろそろあのしわに紙を挟める。
そして結局「二人もああいってることだし、ね!」とメイドさんに引きずられるようにして松隆くんの隣に座らされた。やはりその眉間のしわは深い。でも喫茶に入る以上は礼儀だと思っているのか、アイスコーヒーは注文した。
「言われたから来たが、なんだこれは」
「仕方ないじゃん、入れって言われたんだから。どうせなら駿哉も含めて御三家票を売ろうと思って」
「ここに座っているだけで票が入るのか。とんだアイドル気取りだな、俺達は」
ごもっともだ。でもその通りなのだから、もしかしたら御三家はアイドルなのかもしれない。
「まあ、ここにいることはもう仕方ないとして諦めて」月影くんに睨まれても松隆くんは無視して「蝶乃たちは? どんな感じ?」
「別に、昨日と変わりないんじゃないか? 少なくとも、俺から見ていても特に他生徒と異なる点や不自然に有利な様子はなかった」
「じゃあ本当に八百長も何もなくやってるってことか……」
あの生徒会の連中がそんなことをするだろうか? 松隆くんはそう言いたげだったけれど、月影くんは「そんなに不思議な話でもないだろう」と肩を竦めた。
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