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松隆くんの腕を引っ張っていた女子は、松隆くんと桐椰くんを引っ張るように教室内に連れ込み、「二名様、ご案内しまーす!」と高らかに宣言した。私はいないことにされた。通されたのは四人席だったけど、御三家を狭い席に座らせるわけにはいかないという配慮に過ぎないだろう。私はノーカンのままだ。桐椰くんと私が隣り合い、松隆くんが桐椰くんの向かい側に座る。
「で、得点は?」
「今日は250点。蝶乃の組は230点だから、昨日の分を合わせると70点負けてる」
「得票数が同じなら負けってわけか。丸々一票分といかないのはまだいいけど、つくづく一日目の失点が悔やまれるね」
「それは悪かったって言ったろ……」桐椰くんは心底申し訳なさそうに「で、お前のほうは?」
「朝から大忙しだよ。なんで生徒会連中は親の力を自分の偉さだと勘違いしてるのかね」
はぁー、と大きな溜息と共に松隆くんは椅子に凭れかかる。ついでに肩を押さえるものだから、やっぱり殴るくらいはしたんだと思う。暴力的だ、怖い。そんな様子を眺めていると、松隆くんを連れ込んだ女子がメモ片手にやって来た。
「こんにちはー、ご来店ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」
「アイスコーヒー一つ」
「あ、それもう一つ」
「オレンジジュース一つ」
「かしこまりました。甘いものはいかがですか?」
「遼、いいの?」
「いい」
「かしこまりましたぁ!」
松隆くんが少しだけ笑いながら促すけれど、桐椰くんは短く否定する。なんのことかと思ったけれど、わざわざ腕を組んで何もない窓の外を眺めている桐椰くんに納得がいった。なるほど。
「見た目は厳ついのに甘いもの好きでコーヒー飲めないのが恥ずかしいの? 大丈夫、今時はギャップ萌えというものがありましイタタタタ」
「なぁ総、やっぱコイツ一回くらい殴っていいか?」
「やめてね、生徒の前だから」
生徒の前じゃなければ殴っていいと言うのはやめてくれませんか、リーダー。
というわけで例によって頬を抓まれる羽目になる。教室の様子を眺めると、喫茶店だから一般客が多く、生徒じゃなくても「カップルがいちゃついてんじゃねーよ」という痛い視線が複数。その中で更に花咲生の中から「桐椰くんと付き合ってる上に松隆くんも揃ってお茶なんて」という嫉妬の殺意が多数。
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